ブログ - 20140214のエントリ
ヤカン一つの部屋
ヤカンは机のそば、石油ストーブの上に置かれている
男といつも二人きりだが
特別に寒い日以外は忘れられている
ときどき取っ手を腹に倒しては声を上げる
おい、おまえも退職してひまだな
こんな一生を死ぬまで送る気じゃないだろうなあ
男はパソコンでニュースや株価や書き込みを見るだけで気づかない
散歩をし垣根を作り畑を耕し便所の汲み取りをし
独り飯を食い風呂に入り薬を飲み
もう一日が終わりだ
座椅子に体を伸ばして夕刊を読みテレビの声を聴いている
誰かがうなっている
聞き取れぬほどの声で
心地よさそうな呟きがいつまでもつづく
ヤカンの下で油の芯が燃えている
イジィイジィジィ・・
浪花節みたいな独り言がはじまった
金属じみた唸り声がなにかしゃべっている
イジィジィイジィジジー
はてどうしたんだ?
はてなんだっけ
はて誰だっけ?
誰でもない何でもない
ジージージージー
どうかした?かおかしな声だな?でも声でもない
どうするんだ?
どうしたらいいんだこの地球は
おまえたちにわからない声で地球の果てにまで愚図ってるんだ
もう諦めたよ、ここまでくれば終わりだな
ヤカンはうなりを止め
口から湯気を漂わせ
あげくにはフタを持ち上げてタンバリンを叩きはじめた
おれたちの演奏は人間が生まれる前からあったし、
滅亡してもつづくのさ
そろそろおれたちだけの世界がやってくるぞ
ヤカンだけがぽつんと生き残った地球を想像してみろよ
おれたちは滅亡することはないのさ
無生物だなんてバカにしていたが命はあるし考えることだって出来るんだ