城山峠
岸辺風士
バイクのヘッド・ライトが明るみ、夜の訪れがわかった。
一日中走り回った後、バイクは、旧道につうじる分かれ道に入った。ここからは担当地域ではなくなる。帰宅への道は解放感に通じるのだがそれは一時的なもので明日の朝までの猶予でしかない。
右方に目を向けると、広いバイパスの車線が見わたせた。高い照明灯がわたしの目に止まり、冷たくそびえていた。かま首を路面にのばし、黄色い明かりで路面を見下ろしていた。いつもの光景なのだが、しょんぼり立った照明灯はわたしの孤独感と気脈をつうじ、さびしいながら安らぎをあたえた。
バイパスのトンネルから数台の車が現れた。ヘッド・ライトを光らせ、長く伸ばしてきた。
わたしと行きかい、去っていった。
そこは城山のふちに位置していた。見上げても山は見えず、闇の中に没したままだ。
(城山の下を車で走っていると夏でもひんやりしてくるわ。古戦場で屍んだ武士達の霊がさまよっているのよ)
集金先の」信心深い主婦の言葉がよみがえった。
そのとおりであった。
雨がよく降り、気温が二、三度は下がった。夏は涼しくて助かったが、冬の寒さはバイクで走る身にこたえた。体が凍りついたように硬くなっていた。
峠を越えると担当の地域を離れ、目に入る戸建の家も、アパートも、会社の事務所も、BSアンテナも探索の対象からはずれ、普通の景色、本来の平凡な姿に戻る。
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