ブログ - 20220110のエントリ
最近、kさんのことをときどき思い浮かべるのだが、電話するには戸惑ってしてしまう。ケンカ別れをしたわけではないが、気まずい部分が残ってしまった。
それよりも彼が私に残してくれた言葉や思想が生き返ってくるのである。量子力学をはじめ現象学や哲学、幽体離脱の話など思い出すたびに多才で魅力的な男であったと思う。
話しは飛ぶがこの一、二年,社会の事件の傾向はこれまでとはすごく異なっている。死刑になりたいから電車の中で火をつけたとか焼肉屋に爆発物を置いて閉じこもったりとか、ビルに放火して何十人も焼死させた事件など、起こったがいずれも死刑になりたいというのが動機である。自分は自殺が出来ないから殺してくれということであるし、目標を見失った現代とコロナに打ちのめされた人間の姿が見えてくるようだ。
そこでkさんの言葉が現実味をおびてくる。
他殺は自殺であり、自殺は他殺である。
と、彼はよく言った。
彼はプロの革命家として、学生運動をやった。その最中、追いかけられてビルから飛び降り、半死半生のめにあったとか某宗教団体の本部を襲撃して仏壇を叩き壊したとかそんな話をよくしたが、痩せて小柄で物静かな彼にそんな過去があったなんて想像もできなかった。
「高校時代のことだけど、おれは高級官僚だった親父に反抗的でね。誰のおかげで飯が食えてるんだ!ってよく言われたから、誰のおかげで親父でいられるんだ?って言い返してやった」
わたしが理解できなくて黙っていると、「おれがあんたを親父として認めているから親父なんだろう?って言ってやったら、親父は言い返せなくてまたおれを叩いた」
kさんは現象学から学んだのであったが、よく考えてみると理解できた。もし、無人島で一人で生活していたとしたら自分が背が高いか低いかもわからず、自分が自分でなくなり、頭がおかしくなってしまうのではないか?他人という鏡があるから背が高いとか低いとかがわかり、また、自分の存在が認識できるのである。
人を殺すということはその鏡を壊すことであり、すべて壊してしまえば自分お姿は見えなくなってしまう。それはまた、自分を殺すことでもある。
(世界中の人間を一瞬のうちに殺すにはどうしたら良いと思う?)
kさんはこんな質問もした。
(それはねえ、ピストルを自分の頭に向けて打つことさ)
彼は言った。
最近の殺人事件を振り返ると、その警句の意味がわかってきた。