ブログ - 20210626のエントリ

醜い花は、いない

カテゴリ : 
日記
執筆 : 
nakamura 2021-6-26 8:24

  ニヶ月前から新作の小説を書き始めたが、題名やストーリーに迷い、何度も書き直していった。今、やっとそれらがはっきりして、方向性ができた。題名は、(風蘭)、から(真夏の黒蛇)、に変わり、(醜い花は、いない)に決まりそうである。主人公は男好きの未亡人・君枝から、奇形顔の作男・鉄ちゃんに変え、主題も彼女の男たちとの遍歴から鉄ちゃんの人生に変わった。難しい作品ではあるが登場人物も身近な人々であり、体験も十分にあるので不足はない。ただ、あまりにも体験が多いので材料負けしないように気をつけねばならない。

 鉄ちゃんは三歳の時に小児がんにかかった。顔にできたので顔中にメスを入れられ、無残な顔になってしまった。学校に通わせればいじめられると母親は考え、学校にはいっさい行かず、農作業と家事手伝いで三十五歳まで生きたのであった。結婚し、離婚し、ホームレスになり、救援組織に拾われて安アパートに住むようになった。そこで、隣室に住んでいた君枝から生活の世話を受け、彼女の実家の農作業をするようになった。

 スイカを百個つくり、売ることが君枝と鉄ちゃんの夢になり、彼はいつの間にかその家で昼ごはんを食べるようになった。いろんな世間話をまじえているうちに、こんな話が出た。

 (奥様、醜い花、ってあるんですかね?)

 いきなりの問に彼女がこたえられるはずはなかったが、彼の顔とのつながりは感じた。

 (聞いたことはないけどね。あるのかしら、あっても買う人はいないでしょうけど)

 (でも、興味を示す人はいるかもしれないですね)

 (何人かの人が興味をもっても商売にはならないわね)

 (そうですね。ところで、醜い、って誰が決めるのでしょうか?)

 (人が決めるのでしょうけど、どうやって決めるのかね?)

 鉄ちゃんはいつものように顔にマスクをして、切れ上がった唇と潰れた左目を隠していた。マスクに触れて隠れているかどうか確認してみた。

 会話はそこで止まってしまったが、君枝は友達の大村に聞いてみた。

 (それはばくも考えたことがあるんですよ)

 彼は痩せてすごく小さい男で、そのことにコンプレックスを抱いていた。

 (花は球根や種で増えるから、蝶や蜂が寄ってくるように魅力がなければいけない。寄っていく花はその種によって決まっているけど、新種の花ができた場合、どうするのだろうか?初めてだけど匂いや色、形を見るに違いない。そこで惹きつけられるか?どうかだな)

 (面白いわね。実験してみたらどうかしら?)

 (そう、やってみなくてはわからないけど、逆に花の立場なんだな。どんな匂いや色・形が効果的なのか?どうやって考え、知るんだろうか?誰かが、神みたいなものが指示を出すのだろうか?でも、ちがう考え方もできるかもしれない。つまり結論を言うと、きれいな花の場合は交配をされて増えるであろうけど、醜いと判断された場合は放置されて絶えてしまう)

 (だから、醜い花は存在しない、っていうのね)

 (うん)

 (でも人間社会ではそんなことはない)

 大村は視線を強めた。

 (役立たずの者でも絶えることはないし、生きている)

 大村はそこから先は自分の命題として、残し、ある時、思いついたのであった。

 (役立たずでも醜くても対立物としての存在価値はあり、それがなければ社会は成立しないのだ。醜いものが消えれば、美しいものとしての判断はできず、消えていくしかない)、

 

 

 

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