ブログ - 20181224のエントリ

介錯。

カテゴリ : 
日記
執筆 : 
nakamura 2018-12-24 8:06

  昨日の日曜日は、いつものように教会に行った。信者と神について話をし、講演を聞き、賛美歌を歌った。帰ろうとして、少し離れた席の老男に気が向いた。新参の者で、二週間前から顔を見せていたが口をきいたことはなかった。頭が禿げ、歯が抜け、度の強いメガネをかけ、風采の上がらない男で、自分の分身みたいであった。

 どうですか?と声を掛けると、彼も待っていたように寄って来た。

 話を交えた。神の愛がわからない、脳溢血を起こして手術をしたが、毎日、リハビリで三時間、歩いている、飯を食い、糞をするだけで、話し相手もおらず、死んでしまいたい、と私に似たような生活、気持ちが伝わってきた。心臓バイパス手術の出来事をわたしは話し、障害者の会や年金の会、カラオケ教室に通っていることを話し、関心を持たせようとしたが、彼は彼のことにしか関心がないようであった。三日間も歩かなければ、歩き方がわからなくなってしまう、と言うのだ。腰に力を入れ、腿に力を入れ、脚に力を入れ、足先を出す、その順番を考えながら、筋肉に指示を出し、歩き始める、と言うのである。

 わたしは、驚いてしまった。わたしでさえ、そんなことを足に指示しながら歩いいたことは無いし、そんな人がいるなんて知りもしなかった。ベケットの(名づけえぬ者)という小説を思い出した。そこでは、階段を上る男が、一段目に足を乗せる時、これが一段目なのか、もしかすると、0段目なのかと思い迷う場面が長々と書き出されて始まる。奇妙でユーモラスとも言えるのであるが、作者は真面目に書き続けている。ノーベル賞をもらっただけのすごい作品であった。

 教会で会ったとその男は、仕事で、車の運転席に座ろうとして、突然、脳出血を起こして、体が動かなくなったという。彼を助け、救急車を呼んだ同僚に、何で俺を助けたんか!ほおっておけば、俺は死んでこんな人生を送らんですんだのに!と言ったという。家にこもり、後はリハビリの散歩をするだけで、車や電車に乗って出かけることも出来なくなった、という。

 何とも辛い話であるが、わたしは違う世界を知って、心が湧いた。彼は安楽死を肯定することも言い、切腹の時首を撥ねる役人は悪者ではないと、自分と同じ考えを言った。

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