ブログ - 20230320のエントリ
250件ほどの家に、二年間ほど弁当配達してきたが、来月から受け持ち地域が変わることになった。自炊のできない高齢の孤老の家を一時間半ほどので回り、自分は運転はせずに、配達だけをしてきたが、思い出は残った。
大声で、弁当です!弁当をもって来ました!と玄関で叫んでもすぐに返事が返ってくることはない。ほとんどの老人たちは耳が遠かったり、テレビのスポーツに夢中になっていたり、近所の家に遊びに行っていたりしている。そうかと思うと、オベントウデスネ?、チョットオマチクダサイ、と間の抜けた声を出し財布を探し始め、手提げ袋の中をよたよたと手を回す。見つかるまで寒い外で立って待たなければならない。または返事はするが歩けないために床を這って来るお婆さんもいた。どうしたんですか?たいへんですね、とはいうが長話をする時間はない。色っぽいお婆さんには花の球根ややったりしたが、次の週に行くともらったことをすっかり忘れている。
返事がなければ安否確認のために家に上がり込み、家じゅうを探したこともあった。倒れていて、警察を呼んだこともあるらしい。自分の生活に戻って草むしりをしていても、あの声が聞こえてくることがある。丁寧なお婆さんで、自分が帰る時には門扉のそばまで見送りに来て、ありがとうございました、気を付けてお帰り下さいね、と深々と頭を下げるのである。
今にも消えそうな干からびた声が、あの世から自分を呼ぶように聞こえてくる。もしかするとあの世で会えるかもしれないが、忘れられない声である。