ブログ - 20170227のエントリ
先週の水曜日は、(障害者の会の演芸会)が開かれた。遠賀、水巻、芦屋、岡垣の四町村が毎年開いているイベントで、昨年は、カラオケと手品が余興になり、面白かった。弁当を食べながら日頃顔を合わさない仲間たちと話したりして楽しんだ。
カラオケの午前の部が終わると、水戸黄門の芝居になった。男優が足りないのであなたが役に出てくれと突然、言われ、びっくりしたが断れもしなかった。楽屋に連れて行かれ、袴を履いたり、鬘をかぶったり、顔に墨や紅を塗り捲られ、借金の取立て役、だと言う。舞台に立って演技をするのは初めてだし、どもる癖もあるので不安であった。
舞台ではすでに物語が進んでいたが、その様子は楽屋裏では見えない。金を返さなけりゃあ酷い目にあうぞ!と脅かせばいい、と教えられていたがどうなるのかわからない。
子分を二人連れた出番になり、舞台に出た。金を借りた貧しい百姓老婆と娘が返せないことを許してくれ、と頼んできた。
(俺たちだってなあ、おめえが返せねえから子供に飯を食わせられねえんだよう!わかってんのか!借りてることは間違いないんだよ!)
と私が大声で言うと、子分が借用書を大きく広げて、見せた。
(返す気があるのかないのかはっきりしろや!お天道様はちゃんと見てらっしゃるんだよう)
(お許しください!今年は不作で米がとれなくて困ってるんですよ)
(そんなことは知ったこっちゃあない。おめえなあ、体で返すっていう法もあるんだぜ)
わたしは老婆の傍に寄り、唇が可愛いじゃあねえか、と囁いた。観客席から(岡垣に女がいるじゃないか!)と野次が飛んだ。
(叩き切ってもいいんだぜ!なあ)
わたしは子分の方を向いた。
そこで、校門様が登場し、宥めて、一件落着となった。
役が終わり、化粧を落として観客席に戻ると、演技が良かった、と褒められた。
わたしは五年前までNHKの集金業務をやっていた。あれは取立て役の仕事であった。
毎日新聞の人生相談の欄に高橋源一郎さんが回答していて、わたしは興味深く読んでいる。彼は芥川賞作家であるが、受賞後は目につく小説はない。彼と私は団塊世代でもあるので考え方に共感するところが多い。
今朝の相談内容は、ある中年女性が妻のある男と不倫をしていて、彼は七月に離婚して女と結婚する、と言っているがその言葉を信じていいものかどうかということであった。答えは次のようであった。その男がいつまでも離婚に踏み切らないのは離婚後の気持ちや生活に不安を持っているので、離婚の約束は守らないであろう、ということであった。当の高橋氏も何度は離婚の経験があるのでわかるという。
わたしの住む町にある老男がいて、わたしと親しい。彼に妻がいるが、家庭内離婚の状態である。食事も寝床も会話も別々で実質的な離婚状態であるが生活費は与えている。金に関してグズグズ言われるのは大嫌いだからだ。老男には女友達がいて、趣味もあうし、話をしていても楽しいので一緒になりたいと考えていたが、妻が出て行かないので再婚が出来ない。家裁に行けば間違いなく調停離婚になるのであるが、彼は離婚届の用紙をもっていながらそれから先には進まない。
妻は老男の行動を毎日、監視している。若い頃は興信所を使って調べたこともあったが年金暮らしの今はそんな余裕はない。彼はその女と時々、ドライブをしたり、家に行ったりするがそれ以上の行為には進まない。女は夫を亡くしているが夫の不倫でさんざん悩まされ、興信所を使ったこともあった。妻子ある男とは絶対に深くは進まないといつも言う。
今月になって老男はその女の裏切り(男関係)にあい、別れた。電話もしなければ家に行くこともないが、女を忘れきれたわけではない。二人でカラオケ発表会を見に行ったり、食事をした日を思い出し、同時に家を出る時に彼の妻が彼の服装や靴やバックに女の陰を読みとろうとしていた日を思い出す。期待と不安の入り混じったあの日々は彼の最後の恋になるかもしれないが、違う意味では彼は、恋に恋していたのであり、その女そのものを恋したわけではなかったことを知っている。スリルとサスペンスと同じく、不安も調味料として味付けの役を果たしたわけである。