ブログ - 20250130のエントリ
この二、三日、お客さんたちに弁当を配るたびに、寒いですね!が合言葉になった。老人たちは火の気のない部屋で身を縮めて、弁当を待っている。要介護が必要で買い物にも出かけられず、料理もできないというのが条件であるが、そんなふうには見えない人もいる。日に十五件ほどを一時間でくばるのだが、老人たちの生活が見えてくるし、自分が人に感謝される仕事をしているという満足感も出てくる。
十四件目の家はAさんであるが、少し緊張する。チャイムを鳴らし、ドアを開けて、「お弁当ですよ!」」と声をかけてやるが部屋のドアは締め切られたままである。するといつも間にかドアが開いて、Aさんが立っている。まるで幽霊のように存在感がなく、吹雪から戻って来たばかりだといわんばかりの重装備である。熱い手袋をはめ、毛糸の帽子をかぶり、オーバーをき着て、ご苦労様です、と消え入るような声を出している。まだ真新しい家で暖房設備は十分にありそうなのであるが、エアコンもストーブもない。
いつもいつも助かります、と彼は言い、三百円はいつも下駄箱の上にきちんと置いてある。心不全を患い、車はなく、国民年金だけで生きているという話を聞いて自分の身と引きかえ苦しさがじゅうぶんわかった。
あまり長話はしない人だが、去ろうとすると、この弁当できょう、生きられます、という。弁当のない時はご飯とみそ汁ですまして入りうという。自分は貧乏であるが、おいしい料理を作り、酒は飲んでいる。彼に今度、おいしい料理でも作ってやりたいと思う。
外に出ると、木枯らしが頬に吹きつけた。