ブログ - 20170917のエントリ
当時、28歳の頃、神奈川県相模原市のボロアパートに住んでいた。便所は汲み取り式で風呂もなかった。東京部品工業と言う会社でトラックのブレーキの組み立て作業をしていた。臨時工であった。2交替制だったので、その日は昼間まで寝て、15時頃から出勤するつもりで、布団で寝ていた。
玄関ドアの方で女の声がした。当時、女に縁のなかったわたしは布団の中で不思議に思いながら、ドアの内鍵をしていなかったことを思い出したが、布団から起き出さなかった。
すると、「まだ、寝てんの?起きなさいよう、お日様も出てるじゃない」と馴れ馴れしい声と同時に、二人の中年女が上がり込み、寝床のそばに寄って来た。わたしは驚きながらも、起き上がり、布団を押し入れの中に入れ始めた。
「あーら、こんな時は女を布団の中に引っ張り込むのよ」一人が言った。
わたしは関心を持ったが返事をせず、二人の女に思い当たる節はまったくないことに気づいた。
わたしが電気炬燵を兼ねたちゃぶ台を出すと、女達は当たり前のような顔をして、腰を下ろした。
「生命保険の勧誘なのよ」一人が言い、名刺を差し出した。
わたしは理解し、無礼さの非難はしなかった。
わたしは出勤のことを考えて、台所に行った。
イワシの煮つけを作り、キュウリの酢の和え物をちゃぶ台に置いた。一人の女は「あーら、美味しそうだわね」と言いながら、楊枝でキュウリを摘まみ、食べ始めた。
それから、生命保険の勧誘の話を始めたが、わたしは全く関心がなかった。
女たちは関心のないことを知ると「今度、来た時はお願いね」と言って帰って行った。
彼女らが再び、訪れることはなく、それだけのことであったが、キツネにつままれたような気分が残った。
不法侵入になるになる出来事であるが、当時はそんなことも見逃される時代であった。後に、(枕仕事)と言う言葉を耳にし、その意味がわかるようになった。