ブログ - 20131017のエントリ

一時間だけの夫婦

カテゴリ : 
日記
執筆 : 
nakamura 2013-10-17 19:31

 これは短編小説です。

 

 カレは月に一度、理恵に会うためにそのソープランドに通った。

 片手に二つの弁当が入ったビニール袋を下げ、灰色の洗いざらしの作業服を着たカレは人目につきやすかった。馴染みの店の客引きの男はカレを遠くから見つけ、頭を深く下げた。道の片側はソープランドが看板を並べていたのでカレは他の店の客引きを避け、駐車場から迂回して来たのだが馴染みの男は見逃さず、カレを迎えた。

 カレは笑いながら店内に入り、名前を言って金を払った。予約していたのでスムーズに進んだ。

 待合室に案内されて、三十分後の時間を待った。眼前にテレビがあってバラエティ番組を流しながら時間の表示をしていたので、カレは携帯電話の電源を切った。カーテン越しに客を見送る女の声や店員のお礼の声が聞こえたのでその様子をカレは楽しみ、理恵は今頃部屋の中で自分を迎える準備をしているに違いないと考えた。

 彼女と知り合って十年になる、ということはその間通い続けたということだ。カレは臨時の肉体労働をしながら金をため、月に一度、彼女を指名して会うのであった。頭が悪く、人間関係も下手なカレは四十歳を超えても定職につけず、女も出来なかった。安アパートに住んで生きていた。月に一度のツマに会うために、彼女の好きなカシワ飯の弁当を買ってきて、行為の後にその部屋の中で二人で食べるのだった。カレは童貞であったが理恵が性愛の世界に導き、生きていることの素晴らしさを教えてくれた。ぽつりぽつりした会話の中で彼女がどこに住んでいるのかとか家族のことなど訊くと、そんなことはどうでもいいじゃない!と理恵は強い口調で言ったのでカレは身辺のことは口に出さないことにしていた。

 テレビの時間表示が出会いの時間を告げていた。理恵の顔が近づいてくるようだが五分や十分の遅れはよくあった。慌てることはない。彼女はその時間だけはカレのものである。

 ボーイの足音がカーテンに近づくだけでカレは直感した。

 (お待たせしました。お客様!どうぞ!)

 その声にカレは立ち上がり、眼前の暗い柱の陰に隠れている理恵の方に歩いていった。

 

 ここで付け加えたいのは理恵も人間関係が下手で我がままな女であり、特定の男をつくったり結婚生活の中で男といっしょに生活することを嫌がっているということです。終身雇用制度から派遣労働中心に雇用の世界も変わり多様になってきています。それが良いか悪いかは別にして、結婚の形も前回のブログ(一夫一婦制)の中で書いたように変わっていくと思います。女との付き合い、男との付き合い、が面倒である、そんな若者が増えていると新聞に書いてありましたが、この短編小説にうある男女関係はすでに芽生えているのではないでしょうか?

 

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