ブログ - 20230704のエントリ
家の裏口から入ると日産・サファリが体に錆をまとい、フォッグランプをとびださせて、居座っていた。まるで野戦から戻って来たばかりだというように、その家の主人のような顔で番をしていた。
お弁当ですよ、お弁当をもって来ました!
大声を張り上げて、不審者ではないことを告げた。
砂利が敷かれ、ポットにも花らしきものが植えられ、小さな庭は庭らしさをまだ保っていた。
裏口のドアを叩き、また叫ぶ。返事はなく、キッチンの窓、サッシ戸は硬く締められたままである。
もう一度ドアを叩いて叫ぶ。
トイレの小窓が開けられることを知っているのでそこに目を向ける。一年前、そのあたりにスリップが三枚寝ていたことがあった。、ピンク、青、赤とそれぞれの色が砂利の上に体を広げていた。
小窓に気配が開き、そこから白髪を振り乱した老女が、それでも笑顔で現れて、手を伸ばしてきた。笑顔があるのは食べ物が来たことの嬉しさであろう。顔色は白く、汚れていた。
ありがとうございます。
老女は言って弁当を狭い隙間からひきあげ、小窓を閉める。
バインダーの紙に代筆でサインをし、金は後日振り込まれる。
ところが先週配達で訪れた時、いつまでも返事がなかった。キッチン、引き戸の窓を叩いても返事がなく、玄関の入口は廃木が重ねられていて、入れない。
配達を担当している社協に電話を入れ、そこから電話をしてもらった。すると、老女は電話に出て、立ち上がれなくなって動けない、と応えた。
社協の所長が家に訪れ、入院させたのであった。
配達先は十二軒ほどであるが、その家を通るたびに車を停めて、中を覗いた。
サファリの車体の下から美しい花が顔をのぞかせていた。百合の一種でアマクリナと言う名前であることを知った。赤紫の色で花弁を大きく広げ、この世の主だと言わんばかりであった。主が入院したことを知っているのか知らぬのか?の偉容であった。