ブログ - 20171013のエントリ

思い出の家並。

カテゴリ : 
日記
執筆 : 
nakamura 2017-10-13 7:41

  5年前の65歳まで、バイクに乗っていろんな街を走り、いろんな家を訪ねた。久留米、大牟田、柳川、大川など3時間もかけて走り、ビジネスホテルに泊まって、NHKの契約取りの仕事をした。

 今、布団から起きたばかりだが、二時間前に観た夢を思い出した。古びた板壁の小さな戸建ての家、それがぽつりぽつりと離れて建っていて、確か大牟田の炭鉱住宅を訪ねた時の印象がよみがえったのであろう。庭や空き地に,花芯が赤く、周りが桜のような花があちこち咲いていて、私は見回しながらあの花を自分の庭に植えてみたいと考えていた。すごく幸福な気持ちであった。丈は腰のあたりまで低く初めて目にする花であった。

 私が近づいて花に触り、調べようとすると花弁は鮮やかさを失い、萎むようであったが、目を辺りに向けると、通り道の角や下り坂、あちこちの家一軒一軒の家に咲いていた。私は見とれていた。

 福岡市の郊外のそんな借家を訪ねたことがあった。突然の訪問に初老の主婦は驚いた様子もなく、契約のお願いをすると、一か月分の1345円を払い、口座振り込みの書類に押印してくれた。

 半坪ほどの上がり框にわたしは屈み、部屋を見回すと、ちゃぶ台の上の大きな皿に総菜が置かれ、空の茶碗と箸が帰って来る家族を待っていた。主婦は口数の少ない、穏やかな人であった。

 ラジオから歌謡曲が流れていた。鶴田浩二の静かな歌であった。どこか戦争の名残を匂わせる声音が私の心に染み、今でもその時の印象を忘れはしない。

 近所に住む男友達は60歳過ぎの独り者で、老いた母親の面倒を熱心に看ている。彼はわたしにいつも同じことを言う。この町を歩いていても、老人ばかりでみんなしょんぼりしていて元気がない、と。わたしはその通りだと答えるが、その印象は実は彼と私の心象に原因があるのである。わたしが町を出て、いろんな街や農漁村を訪れた時、街並みは仕事の意欲に満ちた私の心の鏡に輝いて映っていたのである。

 

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