ブログ - 20231128のエントリ
ボロアパートの寝床の中で、女の声を聴いた。
「起きなさい!まだ寝てるの?朝よもう・・」
入口のベニヤのドアからであった。
付き合ってる女はいなかったし、約束もなかったが、起き上がることにした。
布団を押し入れの中に入れ始めると、二人の中年女が六畳間に上がり込んできた。
「こんな時は、女を押さえつけてやるのよ」
まったくく知らない女がそばに立っていて、古くからの知り合いみたいな態度であった。
「仕事は午後三時からなんで、これから食事をする」
と、自分は言いながら、その二人の女が誰なのか?もしかするとどこかで会ったかもしれない、こんなにしたしげに上がり込むには・・。
そこは神奈川県相模原市の、はるか五十五年前の光景であった。
女たちはすでにちゃぶ台を出して、座っていた。
「仕事は大変でしょう?」
「うん、ライン作業だけど手押しでやってるから楽だよ」
トラックのブレーキを組み立てていて、自転車で工場まで通っていた。
納豆と卵、ラッキョウをちゃぶ台の上にのせて、食べ始めた。
「これ、美味しそうだね!」
若い方の女はいうと、爪楊枝を伸ばして、口に入れた。
母親の手作りで福岡からおくってくれたものであった。ラッキョウは大好きで貴重品であったが、食べるな、とは言えなかった。もう一人の女も爪楊枝で取って、食べていた。
女たちが生命保険の話を始めたので、勧誘員であることがわかった。
勧誘の話を始めたが、まったく関心はなかった。
「彼女はいるの?」
「いない」
などの話を交えると二人は名刺を置いて、帰った。
それから、工場に出かけたのであるが、作業をしながら、まだ夢の続きを見ていた。
女達はもう一度、訪れたが、契約を断わった。
玄関ドアの鍵などかけたことがなかったのであんなことが起こったのであるが、あの時、布団の中に抱き入れたらどうなっていたか?想像するだけで楽しい。やはり、男と女がいるからこの世は楽しいのである。