ブログ - 20171106のエントリ

楽屋裏は日の出前。

カテゴリ : 
日記
執筆 : 
nakamura 2017-11-6 21:03

 警備会社で働いていた頃、格闘技家の前田日明の警備をしたことがあった。天井に一個の電灯がついただけの控室であった。彼はパンツ一枚の姿で独り、試合に備えて、気持ちを整えていた。時々体を軽く揺すったり、両肩を回したりしていたが、椅子に座りぢっとし始めた。沈黙と闇がリンクした。わたしは5メートルほど離れた位置で彼を見ていたが、自分が警護する立場であることをすっかり忘れ、彼を観察していた。闇の中にすごいエネルギーがオーラを放っていた。真剣勝負を控えていたのだろう、殺気が迫って来た。

 昨日、戸畑のウエル・戸畑と言う大型施設でカラオケ発表会があり、わたしは出演することになっていた。ステージで歌う10人前までが楽屋裏の待合室で順番を待っていた。音響機械があり、マイク渡しや進行係など関係者がいて、出場者はステージの方を観たり、小声で歌を歌ったり、緊張して黙り込んだり、仲間としゃべったりしていたが、そこも同じく天井にわずかな明かりが点いているだけの殺風景な闇であった。

 わたしはステージに進む段になって歌詞を思い出そうとした。が、頭の中は真っ白で何も無かった。ステージに立てば、目の前のモニター画面に歌詞が出ることを知っていたのでそれを見ることにした。歌い始めると、自分の手が歌詞の世界に合わせるように動き、(千鳥の舞)という物語の世界を演じ始めた自分を知り、安心して歌っていった。

 歌い終わると、カラオケの先生が立っていて、あなたを見損なっていたわ、と言ってくれたり、先輩が下腹に力が入っていなかったよ、などと忠告してくれて嬉しかった。

 帰宅すると、読んでいなかった朝刊を読んだ。9人を殺した座間市の殺人事件のことが載っていた。殺人者の楽屋裏は彼の一間の部屋であるが、9人の死体を箱の中に入れたまま、逮捕される前の日まで寝起きしていたのだ。金が目的だったとか、暴行が目的だったとか供述しているが、死体を埋めるとか川に捨てるとかしてなぜ証拠隠滅をしなかったのか不思議である。彼にとってそれは死体ではなく、幸福な生活を共にした記念品であったに違いない。命を共にした絆の象徴であったのであろう。

 私の部屋には4箱の昆虫箱、カブトガニ、ハマグリなどの貝が壁に飾ってある。アゲハチョウ、紋白蝶、カミキリムシ、クワガタムシ、カミキリムシなどが羽根や脚をピンと張ってまるで生きたもののように並べられている。40年前、東京から戻った時に採集したものである。

 私の青春を共にした大事な記念品なのである。それらは色も落とさず、当時に姿のまま箱の中で生き続けている。わたしは思う。殺人者は私と同じように、八人の女たちの姿を、出来れば、当時のままの姿で保存し、いっしょに生活していたかったに違いない。私の母が、自室で孤独死をしていた時、葬儀屋に頼んで死装束に包んでもらい、葬儀場に運んでもらったが、わたしは母の死に目に会い、母と一晩過ごしたかったといつも悔やまれる。

 生命が死んで物体物質に戻ると言う事は生命が生まれるのと等しい出来事なのである。昔、(水のないプール)というエロ映画監督の作品があった。そこでは女の下着を収集した男が部屋の中で、たくさんデザイン豊かなパンティやブラジャーに囲まれて、天国にいるような生活をいていた。彼は母の胎内にいるような気持であったのだろう。男は誰でも狩猟者・収集家のDNAを持っているが女には少ない。性同一障害を始め、時代や人間を見直す転換期に来ていると思う。

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