彼は唖然とし、次に顔を強張らせた。
智樹の担いでいる測定器に目を向けた。
智樹は勉を確認すると笑いがこみ上げた。
「ハハハー、こんなことだったのか!」
「見破られては仕方ありません」
勉はへんに落ち着いていた。
「立ち話もなんですから、中に入ってください。観念しました」
彼は右手を上げ、上下にこっそり振った。
「俺を脅していたのか?」
中に入ると、智樹は部屋の隅に無線装置を見つけていた。
「そうです」
勉は観念して言った。
「わざわざ、部屋まで借りて?」
「そうです。智樹さんの家がどうなるのか見たかったのです」
「そうか。どうなるんだ?」
勉は応えなかった。
「もうこんなことはしません」
と言った。
智樹に食卓テーブルの椅子をすすめた。
「智樹さんと僕の間って不思議な仲ですね、思いません?」
「そう言われればそうだな」
「本来は他人同士にすぎないのに」
「人間同士の付き合いなんてなにがきっかけでうまれるか分からない。ところで君にいろいろ尋ねたいことがあるんだけど」
「わかります。父の患者のことでしょう?」
「なぜ、知ってるんだ?」
「俺の女を返せ!と叫んだ出来事から一連のことはあなたの身辺をうかがっていましたから知っています」
勉は冷蔵庫のドアを開いてコーラを出し、飲みますか?と言った。
智樹はうなづき、うかがってたのか?とオウム返しに言った。
勉に社会への好奇心が生まれて動きまわるようになればヒキコモリではなくなると考えた。彼だって普通の欲望をもった青年である。
勉はコーラをコップに注ぐと、智樹の前に出した。
「お父さんの患者のことはとうぜん俺にはしゃべれないだろう。そのことはわかっている。しかし、事後催眠というのが現実にあるとするなら俺は非常に興味がわくし」
「いつか記事にしたい、と言うわけですね」
勉は先を読んで言った。
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