無線には少しの知識と経験があった。アンテナの付いた電波測定装置を取り出し、バッテリーの残量を確認した。ヘッドランプ、予備のバッテリーと本体をバックに入れて肩から担ぐと、軍手をはめ部屋から出た。
測定できる範囲は百メートル四方しかないので行動は限られており、発生源は確定できないかもしれない。
メーターの針の反応を見ながら歩いた。先ほどの道順をゆっくり折り返していった。針は動かなかった。
クリスマスツリーのイリュミネーションの点滅が針の動きを見えにくくして邪魔くさかった。
先ほどのアパートに近づいた頃、針が大きく揺れた。
彼は部屋を見上げた。
一階に五部屋、二階に五部屋、計十部屋である。明かりが点いているのは四部屋であるが、消灯してても在室してる場合もある。遮光カーテンでぴったり覆って明かりがまったく見えない場合もある。
彼は立ったまま呼吸を整えた。
彼はアパートの通路を歩きながら一部屋ずつ、度数を測っていった。度数はほぼ一定であったが、わずかな差が出たので、部屋をニ巡して回った。二階の端の部屋、階段から一番離れた部屋で一番高い度数が出た。
彼はそのドアの前に立った。
ドアの覗き穴が明るんでいた。
人はいる。
智樹が軽くノックした時、(突然うかがって申し訳ありません。徳田さんの部屋を探してるんですけど、ご存知ですか?)という言葉を用意していた。
返事がないのでもう一度ノックした。
ドアの上に目を向け、電気のメーターに目をやった。薄明かりに目を凝らして見た。
メーターの針が輪を描いて走っている。
「・・さん!」
と適当な名前を叫んでドアを叩いた。
鼻をつまんで声を出し、声音を変えた。
覗き穴が暗くなった。
相手が中から智樹を見ている。
すかさず、・・さんと呼んだ。
ドアが半ば開いたので、智樹は素早くドアと床の隙間に左足を入れ、ドアを思い切り強く開いた。
勉の顔が現れた。
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