「上々ですよ」
ここまでが相手確認の暗号であった。
「注文は何になさいますか?」
「ある男の通院と入院の履歴です」
「カルテは?」
「いりません」
智樹はカルテの情報までいれると費用がかさむことを知っていた。
男の実家の正確な住所までは知りえなかったからおよその場所と彼の名前、これは警察で把握した、を伝えた。女は二時間以内に十万円を振り込むようにと金融機関と口座番号を指定し、五時間後にもう一度電話を入れるように言ってきた。
お金を振り込み、五時間後に電話を入れると、女はゆっくりした口調で情報を送ってきた。
盲腸炎を起こして入院した病院、インフルエンザにかかって通院した病院、サッカーをやっていて膝の皿を傷めて入院した病院など十五件ほどあったがその中で現在、入所している病院の施設があった。そして五年前に三年間ほど通院した(高橋クリニック)の名前が出てきたのである。高橋徹の経営する病院であった。
智樹は自分の推理があまりうまくヒットしたので唖然とすると同時に高橋徹の遺書の内容を思い出した
(私の分身たちが木霊を受けついで私の意志を引きつぐであろう)
(私の分身たち)とは二番手や三番手がいるということである。彼らが存在するとしたらどんな行動にでるであろうか?
高橋徹がどんな催眠をかけ操縦したかの証拠は残っていないであろう。勉はパソコン上のその証拠を隠滅していっているし、それより警察沙汰にすれば智樹と美咲の不倫が出てきてヤブヘビになってしまう。
まず芳恵にすべてを告白し、懺悔するか?
この際、もっとも被害をこうむるのは妻子であり、智樹自身の身に及ぶことはその次である。
彼女が知らなければなかったことと同じであるがそうはいくまい。
どこかで消し止めねばまた火が出てくるに違いない。
闇の中から、ドロボー、ドロボーと叫びながら火が飛んで回る。
思い出しただけで背中が震え戦慄がはしる!
美咲と別れ、火が消えるのを待ち、種火さえ残らないように出来るであろうか?時間がたてば不倫の事実も忘れ去られ、なかったのと同じことになる。
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