二台のパトカーが静かに停止し、制服姿の警察官が三人降り立って来た。
 誰かが通報したのだろう。
一人の警察官は携帯電話で「青梅市金井原三丁目・・、現地到着」と小声で呟き、報告していた。二人は肩に吊るした懐中電灯で歩道やフエンスや側溝を照らしながら、智樹に近づいて来た。
逃げることはない。
と、彼は直感し、この状況では不利な点において自分と相手は同じであると判断した。ただ、警察が関わり、美咲との関係がばれること、それは避けたい。
 警察官はフエンスの出入り口に立っていた智樹を見つけ、「何かありましたか?」丁寧な声で言い、足先から腰、胸、顔と順次に照らしていった。
「どうもご苦労様です。不審者はあちらの方に歩いていきました。私もいっしょに行きましょう」
彼は警察官の顔をきちんと見て言い、男が消えた方向を指差した。
 少し歩くとその影は向きを戻し、こちらに歩いて来た。
「ドロボー、ドロボー、トモキ、俺の女を返せ」
その場に居る者にはっきりわかる声である。
「どうかされましたか?」
警察官は男に声をかけた。
男は耳に入らなかったように歩き続けている。
「ちょっと待ってください」
警察官は男の腕を後ろから掴んだ。
男は掴まれたまま、前へ進もうとしたが、腕を捕られて進めない。弱い足踏みを繰り返している。
「名前と住所を言ってください」
警察官の質問に彼は応えず、歩こうとしたが、弱弱しい動きである。
「何時頃からこんなことをしてますか?」
警察官は智樹に訊いた。
「わたしが気がついてから、三十分以上は経っているでしょうね」
智樹は応え、警察官が男をどのようにするか興味を持った。
「一応、保護しましょう」
「署まで来てもらえますか?」
その質問に男は答えなかった。

「では保護させてもらいます。近所の方からどうかしてくれと言う要請がありましたから」 

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