第二章
 
智樹と美咲は横臥して、全裸のまま抱き合っていた。性器を中心に全身を可能な限り密着させて溶け合い、臓器を含め体中の皮膚から熱気を放っていた。高圧状態になりすべての毛穴から興奮が沸き出、熱気を交えながら、昂揚していた。温度は粘りをもって上昇し、気体でも液体でも固体でもないプラズマが体中から溶け出、床から壁天井へと這い回っていた。内部では快楽が研ぎ澄まされ、体の芯は引き絞られて超高速度の振動を始め、温度をさらに上昇させ続けた。
意識が空白になり、時間も止まっていた。
すべてを忘れ、すべてが自己であった。
極限に近づき、発火点に達していった。体の中から熱気が一気に噴出し、火を放った。交接したまま火炎になって燃え上がり、頭上から宇宙へ昇天していった。
自分が火柱になって立ち上り、脳と全身が宇宙と一つになった、その数秒を彼は確実に感じ取り、意識していた。自分と美咲の境もなくなり、一本の芯になったことも。
燃焼が火力を弱め、鎮火して落ち着くまでふたりは抱き合っていた。
やがて大の字になってベットの上に寝、両手両足を伸ばしていた。天井に鏡面が貼りつけてあるのがわかった。そこにに映った裸体を時々見つめ、現在している自己を確認し安心した。
 快感は彼を泥酔させ、どろどろした濁り酒のようにまわりにあふれ出ていた。体はそれに痺れたまま動こうとしない。大海の中でそこだけ波打ち、歌を歌っていた。言葉にならぬ前の波動がのびやかに広がり、宇宙のどこまでもみちみちていた。
 骨髄から発せられた電磁波が振動しながら熱を帯び、沸きあがってすべての臓器に伝わり、皮膚全体に届いて表面を這っていた。心地よい温もりは風呂から出た瞬間に似ていて、部屋の中にたちのぼり、我を没しさせていた。没我と自己喪失が麻薬のように存在をしびれさせている。
 この瞬間が涅槃であろう。
 それを求めてここまで来た。
 そして、また娑婆に帰っていく。

 快楽が引き潮にのって退き、沖へ帰っていくのは次の満ち潮に反転するためである。白いシーツも壁にかかったバラの写真もソフアのガラステーブルも現実の物としての姿を取り戻していく、 

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