怖いくらいの。もしかしたら生命体と非生命体のちがいなんてないんじゃないですか?」
勉は感じ入って言った。
「最近、そんなことを考えるんですよ」
つけ加えた。
智樹も同感であったが動画に気を取られて(遺書)との関連に考えを振り向けることを忘れていた。
ペットボトルが自然、つまり水の力によって動かされていることはわかる。その反応が果たして(意志)に基づいているものであろうか。
(一人の男に(おれの女を返せ)という木霊を残して)
智樹の胸にその文字が突き刺さっていた。
死後に人目に触れるように仕組んだのではないかと推理したが、怖くなったのでいったん打ち消した。
「(おれの女を返せ)ってどんな意味ですかね?」
勉は疑惑を晴らす好機を捕らえてつぶやいた。
智樹は無表情をつくって防衛した。
「誰の女だったんでしょうねえ?」
勉は智樹の表情の動きを見逃すまいと、強い目つきで注視した。
こいつは俺と美咲の関係を知っている。
食あたりというのは俺を呼び出し、事実を確かめるための口実だったのだ。
「オヤジは知っていたんだ」
勉は智樹の表情がフリーズしたのを見て、言った。
智樹はフリーズした表情をつくろうことができなかった。
「女狂い、って言う噂があるんですよ、智樹さん」
勉は薄ら笑いを浮かべて言った。
「俺のことか?女狂いっていうのは」
智樹は勉の横顔を見返した。
智樹の視線に、勉は無言で肯定している。
智樹は余裕を持たせ、挑戦的に笑った。
「女狂いをするくらいのエネルギーを出してみろよ、って言いたいな。お前は早く独り立ちして大人になることを考えるんだな」
冷静な口調に逆襲をこめていた。
「食あたりはなおったんだな」
言い放つと立ち上がり、ドアを開けて部屋から出て行った。
母親のことを忘れるくらいの人生を送れよ、心の中でつぶやいた。
勉は追わなかったし、智樹は振り向きもしなかった。
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