昔はそんな症状なんてなかったでしょう?」
「そういわれればそうですね」
「毎年、今頃剪定をされるんですか?」
「春に剪定をしたんですけど夏になるとこんなになっちゃって、けっきょく年に二回することになるんですよ。いや、三回ですね、年末がありますから。植物の生命力ってすごいですね」
頭をいったん下げて感謝すると、智樹は冷えたコーヒーを半分ほど一気に飲んだ。
「汗かいたあとはかくべつに美味しいです」
智樹は満足して言った。
「ここの庭は業者の手がはいってきれいですね。うらやましい」
「わたしは和風庭園にしたかったのですけど。家がレンガづくりなもので洋風にしちゃいました。正直なことを言いますとここの土地が競売物件で出ていましたので安く手に入りました。その分家に金をかけることが出来たんですよ」
「しかし、立派なレンガ造りですね。赤のレンガってきれいだし風格がありますね」
智樹は赤いレンガで色調を統一した家を見回した。
玄関のドアは緑色の鉄製であった。ガラス戸の縁はアルミ製であり、壁は黄色いモルタルで仕上げられ、木や化学建材を使った箇所がまったくないことに気づいた。
「レンガ造りのこれほどの家だと火事には強いでしょう?」
智樹はいまどき木造作りの自分の家を振り向いて言い、縁起でもない言葉が自分の口からでたことに気づいた。
向かいの椅子に座った隆の顔をすばやく見た。
豊かな頬が笑いをうかべているだけで変化はない。
智樹が佐藤を調査の対象にしぼっていることは知らないだろうか?
歳を重ねると感情なんて簡単には出さないものである。
隆はアイスコーヒーを口に運び、氷をまず口に含んでゆっくり噛み砕いた。
不意に変なというかオカシナ考えが湧いた。
(引越しの先々で隣家が火事になりながら、佐藤の家になぜ燃え移らなかったのだろう?)
古い日本瓦の下、黒の板塀と白壁に包まれた智樹の家はクラシック調と言えなくもないが、火が飛んでくれば燃えはじめるにちがいなかった。それにひきかえ佐藤の家は燃え移る可能性がない。つまり、佐藤は周りの家のどれかが火事を発生させても燃え移らないように武装しているのではないか?
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