背中に声が掛けられた。
振り返ると、佐藤が庭の真ん中に立って笑顔を見せていた。
やや肥満ぎみで全体が大黒様みたいにおうような感じがする。保険業であらゆる人間達と交わり角が取れた末の形であろうか、定年退職後の運動不足であろうか。
智樹は作り笑顔を向け、うなづいて元にもどした。
作業の進行具合を思案した。
半ばしかはかどっていなかった。
断ることはない、取材の機会である。
軍手を脱ぎ、剪定鋏を庭の中に投げ入れた。
「アイスコーヒー、飲みますか?」
「ねがってもないです」
智樹が門扉の前に立つとを、佐藤は門扉をひいてくれた。
「準備しますから少し待ってください」
佐藤は玄関のドアを開けて家の中に入った。
智樹は青、赤、黄色が中心から放射状に入ったパラソルの下に体を入れ、鉄製の丸い椅子に腰を降ろした。
日差しがさえぎられ、影の下はいくぶん涼しかった。
家も庭も新しく、すごく明るかった。
紅柄色の西洋瓦に薄い黄土色のレンガ壁、淡いピンクの石畳が敷き詰められ、成長していない西洋杉などは間隔がじゅうぶんにもうけられ、すっきりした庭をつくっていた。
清らかな静けさがあった。
智樹はしばらくうっとりしていた。
現実か妄想かわからない世界にひたっていると、石畳の上に小さな枯葉が五、六枚現れた。そよ風に吹かれ、重なりあってつむじをつくり、舞いはじめた。
どこかで見た光景だった。
彼は思い出そうと気持ちをあつめていた。
玄関のドアが開いた。
佐藤が現れた。
目を向けると、ラスターの上にコーヒーとスイカを載せた皿を持っていた。
「おまちどう様、コーヒーは出来合いのものですけど、かんべんしてください」
佐藤は言った。
「おかまいなく。うちの杉の木がもしかして花粉症を起こさせないかと気になるんですけど」
智樹は言った。
「だいじょうぶですよ。花粉症は大気汚染が原因ですから、
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