しばらく様子を見てみようか、それに佐藤本人が危険人物というわけではない。
彼はテープ起こしにかかろうとパソコンの画面に向かい、両手をキーボードの上に開いたまま動かなかった。
佐藤の転勤先のすべての隣家で火事が発生したわけではなかった。三件ほどは火事にあっていない。
これは偶然であろうか、それとも根拠があるのであろうか?
「さっき向かいに越してきた佐藤さんの奥さんと道であったんやけど、きれいな奥さんやねえ。良い感じの人や」
ドアを開けて、芳恵が話しかけてきた。
「あんたの好みやないのう?」
追い討ちをかけてきたので、主人が菓子折りを持ってきたが奥さんとはまだ会ってない、とこたえた。
「まだ、会ってないよ」
「あーらそう」
彼女は皮肉っぽく笑った。
夕食のおかずがアジフライだと告げた。
「狐色になるまで揚げて、最期は強火でさらっとな」
「わかっとる、さらっとな」
彼女はおどけてドアを閉めた。
「テンプラ油には注意するんだよ!火事にな」
智樹はあわててドアを開けて言った。
「わかっとる」
彼女は背中を向けたままこたえた。
二、三日後、智樹は自宅の垣根の剪定作業をしていた。垣根は小道との境をつくっていたが、毎年杉の葉が乱れて密生し、あるいは小道にはみ出し、車や通行人のじゃまになり、うっとおしい状態になった。剪定鋏で切った杉の枝はまとめて敷地の中に垣根に投げ入れたが、枯れた杉の葉は燃えやすいので通りかかりの者がタバコの火を投げ捨てたりすれば火事になるなと不安をもよおし、枯れる前にゴミだしに出さねばと考えた。
背後には佐藤の家の庭があり、彼は剪定ばさみを動かしながら、意識していた。
満車時には四台の車が停まっていた。RV車は長男、フランス製スポーツカーは彼の妻、軽自動車は隆の妻、ブルーバードは隆のであったが三台は出払っていてブルーバードだけが駐車していた。佐藤隆だけが在宅しているのである。
智樹は一週間前のことを思い出していた。
「隆さんて親しみやすくて良い人だったわ。怜子さんみたいな女と結婚し、
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