想像の域内からは出ない。(テレパシイ)として科学的に関連づけられたとすれば心の動きが物質として捉えられたということになる。世の中の動きが物質世界から捉えられるようになったとしたら?そんなふうに考えると怖くもあったが新しい時代の始まりになるかもしれないと思った。
次は精神病院から一時退院した男が自宅の床に灯油を撒いて放火した事件であった。智樹が情報を取って調べてみると、彼には妻がいて、入院中に男の兄と関係ができ、それを知って逆上したということであり、同じ系列の事件であった。
智樹が仕事部屋のソファに寝転がって休んでいるとケイタイが鳴った。向井の名前が表示されていた。
「少し長い時間になるかもしれないけど良いかい?」
口調がやや興奮している。
「あれからなあお前と別れて、(シェルドレイクの仮説)っていう学説に気づいてな」
智樹は初めて耳にする言葉に考え込んだ。
「知ってるかい?」
「いや」
「猿が芋を洗う現象があるじゃないか?」
「知ってる、宮崎県の青島でだったかな」
「そうだ」
「それがどうしたんだ?」
「それが遠く離れた国に伝わりそこでも猿が芋を洗うようになったんだ。それとテレビの発明。アメリカとソ連でほぼ同時に起こったんだ、なんの情報交換もないのにな」
「・・・」
智樹は黙って聞いていた。
「シェルドレイクの仮説、っていうのは時空を超えて偶然に同じ形態が起こるっていうことなんだ」
向井は智樹の言葉が返ってくるのを待った。
「俺が何を言いたいのかわかるだろう?」
向井は攻めてきた。
智樹はわかっているのに言葉が出なかった。
「例の火事だよ。佐藤隆が聖火ランナーみたいに走って火事を伝わらせたとしたら?怨念が火事になってな」
智樹は(シンクロニシティ)と言う言葉は知っていたのでそれとの関連を考えたが、(聖火ランナー)みたいに走る、と言う言葉におどろいた。
もしそれが本当だとしたら。

「まだ仮説の段階だからな。学説になったわけじゃないんだ。 

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