「そうですし、ぼくは別に天才でなくったって良いんですよ。
自分の感性がどんなものであるかそれがわかればいい」
「そういえば君はそろそろ三十になるんだったな」
「それがどうかしたんですか?」
「君に言ったってしようがないことだよ。それはそうとこのまえ火事の事件に関わるな、っていってたけど俺は火事になったパチンコ屋に調査に行って来たよ。なにか俺の身の上に降りかかってくるのか?」
「さあ、わかりません」
「お父さんのパソコンの削除データを復旧してるんだろう?」
智樹の質問に勉は黙りこんだ。
父の企みがあのとおりに進んで智樹の未来を操り、結末をつけることになるだろうか?興味もあるし、怖くもある。
「ところで智樹さんは僕の母とは三年前の春から付き合ってたんですよね?」
勉は話題を変え、智樹を突っついてやった。
智樹は黙り込んだ。
勉は母のワンピースのジッパーを上げた日を思い出した。背中に漂っていた香水の匂いをよみがえらせ、智樹への執着心を強めた。
第九章
その日は別々のタクシーでラブ・ホテルの近くまで行った。約束の時間をケイタイのメールで示し合わせ、ホテルの中に入って待合室で待った、相手が来るまで。
ラブ・ホテルにフロントはなく、フロアは無人である。智樹は入り口に美咲を見つけると五メートルほどの距離をあけて歩いた。
彼が2Fの踊り場の案内板の前に立つと20種類の部屋が写真で表示してあり、円形の風呂の写った部屋を選び、ボタンを押してキーの解除をした。そのまま二階への階段を上がっていき、見つけた部屋の前に立ち、こっそり近づいてくる彼女を中に入れてドアを閉めると、自動的にロックされた。
その時腕と腕が触れ、電流が走った。
彼女も驚いて腕を離した。
「電気が走ったの?」
彼女は言った。
「うん。車のノブに手をかけた時になんか起きるじゃないか。
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