次は女になることによって女を必要としなくなった自分を発見し、有頂天になった。男と女が自分の中で簡単にいれかわる倒錯、それは+と?が入れ替わって回転するモーターみたいであった。それから彼は、一週間は女になることで(あるべき男の像)から解放されることに気づいた。男の庇護を受けることを期待し、それでいて子供は産めず育てる責任のない種、それに変身することに安らぎと快感を覚えた。
赤と緑のチェックの帽子をかぶり、ワインレッドの皮ジャンパー、黒のミニスカートをはいた。顔のほとんどをマスクとマフラーで覆い、ケイタイをもてあそびながら街を歩いた。
Tバックのパンティをはき、黒のブラジャーをまとって、彼はペニスや乳首、それらと下着の触れ合いの感触に興奮していた。生地の感触が女の肉体のそれであり、自分の女とつるんでいた。内部に男と女がすんでいた。肉体的な両性具有者ではなかったがそれに近かった。自分が望むように両者は反応し性的に満足させてくれた。
ある時、男の独身者ばかりのアパートに入り込んだ。
帽子をかぶり、目以外はマフラーで覆い、赤、青、黄色のチェックのミニスカートをはいて、一階の踊り場にしゃがんだ。うつむき、左手を靴紐に伸ばして、さも結びなおす仕草を見せながら、股を少し開いて白のパンティに包まれた陰部をさらした。
部屋から出入りする若者はその有様を見ておどろき、逃げたが、声を掛けてきた者にはケイタイを取り出して、次の文章を打って画面を見せた。
(わたしは事故にあって喉をやられ、声が出ません。あなた、わたしに関心があるみたいですね。少しくらいなら、触っても良いわよ)
声音で男と見破られることを防ぐためにそんなことをした。
その言葉に寄ってきた若者には自分のペニスを見せて、退散させた。自分に関心をもたせ相手を驚かせることで社会参加をし満足していたのであった。
珍しく勉のケイタイが鳴った。
智樹であったのですぐに通話に切り替えた。
「どうしてるかい?まだ、天才の目は開かないかい?」
からかうような口調である。
「あのですねえ。天才の目なんてそんなに簡単に開くものじゃないし、天才が天才として認められるには何十年何百年ってかかる場合があるんですよ」
「っていうことは俺の生きてる間に君が認められるかどうかはわからないってことだな」
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