藁屋根の古びた農家とのそばに立っている柿の木を描いた絵であった。葉がきれいな縞模様に色づいて垂れていて、その美しさが忘れられなかった。藁屋根の濃い茶色と葉の緑との補完が強い印象を残していた。晩秋の暮れであった。
 絵は担任教師に評価され、県大会に出品された。賞は逃したが自分自身の感性を知るためにももう一度観たかった。
 物置の中を探し回ったが見つからなかった。
 応接間に戻り、勉はソファに座っていた。あの絵は小学校六年の担任が気に入っていたことを思い出し、プレゼントしたのではなかったかと考えていた。
 日が落ちていた。
 「勉ちゃん!」
 ドアの先は玄関間になっていて、そこから母の呼ぶ声が聞こえてきた。
 立ち上がった。
ドアを開けると、暗い灯りの下に母は立っていた。壁に備えつけられた等身大の鏡に向かっていた。
誇らしげに自分の顔を見つめていた。
 「勉ちゃん、ちょっとジッパーを上げてくれない?」
 目を向けると目の前で紅柄のワンピースの背中が割れ、白い肌がむき出しになっていた。その肉質はブラジャーの紐と質感をまじわらせて官能をあらわにしている。
彼はおどろき、正視することに躊躇し、頭の中がぼんやりしていた。
 自分の衝動に驚愕した。
衝動の正体を知ることに身を背けた。
反面それが沈着する時間を計りながら、ジッパーのホックを探し、首筋に向かって指で引き上げていった。
 化粧の匂いに魅惑され、逃げるように応接間に戻った。
 鏡に映った母の顔を見るまでもなく彼女の気分が浮き立ち興奮気味であることを感じ取った。彼に対してではない。これから会いに行く男に対してである。
 それは智樹であったのだ。
 母を奪った男であった。
 彼は女性への恐怖と嫌悪を抱き、話しかけることもできなかった。

 あるとき酒に酔った勢いで、日頃から気になっていたコインランドリーに入った。ドラムの中にパンティとスカートを見つけ、盗んで自室に持って帰った。パンティをはき、スカートをはいてしまった。異様な興奮が沸きあがってきた。最初は女と常に交わってる快感であったが、 

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