勉は視線を外し、それ以上追及しなかったが、智樹が母との性的関係を隠していることを知っていた。
勉は疑惑が凶暴な怒りを招くのを心の中に留めた。
このことは智樹と衝突を起こし、当然ながら破綻を招くにちがいない。
避けては通れないが、二人は言い出すのを躊躇した。
智樹は湯飲みを親指と人差し指で軽く触れた。
まだ熱いことを知り、指を離した。
冷めるまで待った。
勉は立ち上がるとノート型パソコンを机の上から持ってきて、食卓テーブルの上に置いた。
コードを接続するとスイッチを入れ、ディスプレイを開いた。
「僕は親父の葬儀には参加しませんでした。そのことは兄や姉は知ってたでしょうが非難はしませんでした。もともと敬遠されてるんですから。僕は人の集まりが苦手で、気分が悪くなるんですよ。そのかわり自宅に帰り、父の部屋に入って、パソコンのデータをUSBで抜き取ってきたんです」
「パスワードがあったろう、簡単に開けたかい?」
「そんなのは僕のテクですぐにやぶれます」
勉はパソコンオタクであった。
独学で精通していた。
勉はアイコンの中から(遺書)の項目をクリックした。メニューの中のビデオ映像を開いた。
遺書がこんな形で残されるのか?
消し忘れたのか、故意に残したのか?
画像がいきなり現れた。

青空の下に黄色づいた稲穂が広がっている。穂が数を増やし、エネルギーを燃え立たせていく時期である。そばの用水路にきれいな水が流れている。田舎でよく見る風景である。風景のはしには民家が数軒並び、用水路は稲穂とブロック塀に挟まれ、一直線に伸びている。カメラは用水路の堰に向いた。水が堰を越えて溢れ、流れ落ちている。500ミリリットルのペットボトルと、少し離れて二個のゴルフボールが並んで堰の真下に離れて浮かんでいる。落ちてくる水に合わせて揺れている。突然、変な動きが始まった。一個のゴルフボールが消えた。いきなり水中深く潜り、動き回っていたが上がってきた。水の落ちる地点に戻り、泳いでいる。透明なペットボトルは水面で驚いたように跳ねると、飛んだり跳ねたりを繰り返し始めた。まるでダンスだ。次に立ち上がり水面を歩き始めた。五、六歩歩くと、寝た。落ちる水を体に浴び、 

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