別れ際に佐藤に関する情報があったら頼むと言うと、山本も同じことを言った。
智樹は事務所に戻ると、ソフアの上に寝そべり、天井を見上げて思索した。
 (実家が火事で焼け、転勤の先々その近隣で火事が発生した、八件は隣家から出火した。佐藤の実家も火事で焼けた)
 不可解である。
 たんなる偶然なのか必然性があったのか?
 わかりはしない。
 けれども解き明かしようはないものだろうか?
 彼は目を閉じて、気持ちを休めた。
オーナーに電話をいれ、その出来事を話した。
 目的は取材の予算をだしてもらうことであった。
オーナーは電話の先で考え込んでいた。
個人の事件絡みを記事にすることは購読層を広げることになる、と智樹は訴え、今はそのチャンスであると説いた。智樹は市民新聞の赤字が一千万円にまでなっていることを知っていたから、この際少し方向変換をしてみてはどうか、俳句や川柳くらい載せてもいいのではないかと持ち出した。オーナーには文化の感性が薄いとは言わず市民の生活の匂いが紙面に欲しいと言った。
オーナーは返事を一日待て、と言って電話を切った。
次の日、昨日は言葉でうまく言えなかったけど。俺が言いたかったのはお前の調査でストーリーが予想通りに進むかどうかなんだ。
(予想通り?)
(題名通りということよ。題名はなんだ?)
(飛び火、です)
(飛び火でなかったらどうするんだ?)
(それは・)
(まあ、良いや。金を渋ってるんじゃないんだ。おまえ、気分ばらしもかねて行って来い)
出張の予算を聞いてきた。(二十万円)というと(十五万円で出来ないか?)と迫ってきたので了解した。実費より五万円上乗せしていたから狙ったとおりであった。
 彼は旅行もかねて、現地調査をすることにした。 
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