「それは何だ?」
「ぼんやりしてる時や街を散歩してる時なんか、また寝入りばなの時にチラリと現れる不思議なイメージをとらえるんですよ。
それが逃げないうちに記憶にとどめ、絵に再現していくんですよ」
「ふん」
智樹は、結構な身分だな、という言葉を抑えて聴いていた。
「先週、上野の美術館に(ダリの回顧展)を見に行ってきましたけど」
勉は言って、ダリの絵の超現実的なスケールの大きさや相対性理論や量子力学の影響をしゃべりはじめた。智樹は芸術には仕事上の興味しかなかったので上の空で聴いていた。
「ところで用件はなんだい?」
勉がそんな話のためだけに電話をかけてきたとは思えない。
「じつは今、父のパソコンの削除部分を復活してるんですけど、
えらく面倒なんですけど、部分部分でしかわからないんで全体は把握できてませんけど、父はあなたと母の不倫にたいして復讐を企ててるんですよ」
「それはこの前君とお父さんの遺書を開いた時にわかったけど、本人はもう亡くなってるんじゃないか?冗談だろう、死んだ人間がどうやって復讐するんだよ?」
「これから先はしゃべれません。わたしは証拠を削除しますけどね。はっきり言って智樹さんは火事の件に関わってはいけないということです、それと母ときっぱり手を切ってください。僕は父の息子ですからね。これ以上のことは電話ではしゃべれません。それでは」
勉は電話を切った。
智樹は勉の言葉を思い出し、考え込んだ。
(証拠を削除します)ということは高橋徹のパソコンに犯罪の証拠が残っているということではないか?何の犯罪?
俺への復讐という犯罪ではないか?
高橋徹は亡くなっているのにどのようにして俺に復讐をするのだろうか?それには人の手を使うしかないが誰の手を使うのだろうか?
「アパートやマンションの窓を見ていたら、カーテンのない部屋があちこちありました。入居してないんですね。不景気なんですよ、住宅の供給過剰なんですよ」
山本が戻ってきた。
二十分くらいして、ふらりと戻り、席を外したことを詫びもせずに言った。
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