具体的な調査結果は被災先のプライバシーもあるので電話では話せないと伝えた。
彼が喫茶店でゆっくり話を聞きたいと言うので会うことにした。
第六章
智樹は街のイベントや景気の話から入った。
相手は話好きだった。世間に出ていない智樹の情報に聞き入り会話を楽しんでいたがやがて種が尽きた。
市民新聞は個人の秘話を取り上げたことはなかったので、この事件を取り上げれば新しい分野になるかもしれないと智樹は考えた。プライバシー保護の注意は必要だが個人が特定出来ないようにすれば良い。会社や役所のスキャンダルを掲載して名誉毀損で告訴すると脅されることは時々あったが、オーナーは弁護士もかかえていて事前の構えがあり告訴されることはなかった。
「佐藤さんは会って話をしてもそつが無いし、感じの良い人なんですが、それが逆に不安になるのです」
七十に近く、長身で痩せた男だった。腹部がへっこみ体全体が弓のように曲がっていた。職はなく、独り者で時間を持て余していた。時々顔を仰け反らせるようにしたり、絶えず足を組替えたりして落ち着きがなかった。
智樹は一連の火事の履歴を順番に話していった。
山本は両手を垂れて黙り込み、首を少し傾けていた。
思い出したように左手の指を右肩に伸ばし撫でた。
肩が凝ったのか癖なのかわからないが不安そうであった。
「転勤先の近所で火事が起こったのは、偶然なのか必然なのかわからないですね。佐藤さんが越して来たのが原因かどうかわからないですよ」
智樹は言った。
「そうなんですよ。それがはっきりすれば私が引っ越せば不安はなくなるんですが、私は三十年住んだ家を離れたくないんです。妻子とのいろんな思い出も残っているし」
山本は一息ついて、つづけた。
「どう思いますか?この火事の履歴を調べて」
彼はそれを知りたかったのだ。
智樹は返答に困った。
個人的な見解を述べることは新聞の見解になってしまう。
「正直に言って、私はわかりません、としか答えられないですね。
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