と言うのは隣に越してきた佐藤一家なんですが、主人は定年退職してるんですが変な噂が広まっているんです。その話によると佐藤一家は転勤族で全国二十箇所も移動したのですが、引越し先々の家で、隣家や周辺の家が不審火に会い、焼け出されるんです。その話が本当だとすると、今度は私の家が火事になるかもしれません。不安でたまりません。つきましては彼が転勤した先々で本当に火事が起こったのか、調べてください)
智樹は考えた。
引っ越しの先々、その隣で火事が起こった?
火事はよく起こるし、偶然である、と考えるべきではないか?
普通の人間はそう判断するに違いない。
この男は考えすぎではないか?
よほど暇を持て余しているのであろうか。
智樹はすでに市役所の電気の無駄使いの記事に考えが移っていた。職員が退庁しているのにかかわらず、夜の十時まで市役所のすべての部屋の電灯が明々とついている、と言う投書が市民新聞に届いていた。これは良い記事になるし、その状況の写真を撮るのも簡単である。
夜の九時半頃に出掛けて撮影しよう、
と考えた。市役所に車で出掛けると、職員は退庁しているのに
夜の十時まで全部の部屋の蛍光灯が点けっぱなしだった。写真もうまく撮れ、良い収穫が出来た。
ところが一週間後に市内で火事が発生した。場所は投書が来た地域で、智樹の二つ隣の町であった。民家で、老人がストーブの火を消さずに給油しようとして引火してしまった。ポリ容器からチューブで灯油入れようとした時、ストーブの芯にかかり、畳の上にこぼれあっという間に燃え広がった。半焼して消防車が消し止めたが家は柱まで焼け焦げてしまった。
直通のケイタイが鳴った。
受話器を取ると、
「この前、投書した者ですが、読んでいただけましたか?事務員さんからこの電話番号を聞きまして」
と、えらく物腰の柔らかい声が伝わってきた。
相手は山本であった。
「いつも購読していただいて有り難うございます。投書は読ませていただきました」
「ご存じでしょう。昨日ですよ。私の家の五軒先で火事が起こったのですよ。どう思われますか?」
智樹は返事に迷った。
「私の家にまで迫ってくるかも知れません。心配なんです。
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