お願いします。調べてください。お礼はします」
智樹は考え込んだ。
山本が躁うつ病患者でウツの周期に入っているなんて知りはしない。
(飛び火という言葉があるがそれで火事が起こったようでもない)
(飛び火)につながる事件は取り扱ってきたが、因縁の道筋はつけなかった。新聞は考えに偏ってはいけないし、事実の報道が仕事である。
 だが車に轢かれて子供が死んだ時、親の悲しむ言葉を記事にするか、高額の生命保険金が下りる、と言った言葉を記事にするかでは新聞の方向性が変ってくる。
新聞も基本的命題を持っていなければならないし、持っていなければ糸の切れた凧みたいにふらふらしてしまうだけである。時代の変化、その方向性を読者に示さなければならないが、人権民主主義にいつまでも頼っているのが大手新聞社の現状である。
この火事と山本の話しを記事にすれば読者の興味を引くだろうが、オカルト新聞というイメージが出来てしまう。オーナーは反対するにちがいない。
智樹は軽い気持ちで、調査にかかった。
佐藤隆は大手生命保険会社に勤務し、入社以来、沖縄から北海道まで二十箇所の支店を異動していた。めずらしいことではない。営業部に属し、保険外交員の管理・販売促進業務を任されていた。
火事の情報は所轄の消防署のホーム・ページを開いて閲覧出来た。記載されていない場合は地方紙、テレビ局、調査機関、所轄の興信所などで調べた。一つの業界であるからパイプはあるし、大手新聞社時代の情報仲間が何十人もいて支局、支社は全国に三百もあったから、情報収集は難しくなかった。
佐藤隆の滞在期間は二、三年で、すべて単身赴任であった。火事はある意味で日常的なものだが、彼の居住区、つまり町内で年に五回は発生していた。その頻度は平均的な回数であった。
ところが全国二十個所の移動歴のうち、彼の借家の近所、あるいはマンションの隣室・近所で発生したのは十五件であり、尋常ではなかった。
内容は全焼、半焼、一部燃焼とさまざまである。
原因は解明されていたが原因不明の失火もあった。
移動順に列挙すると次のようになる。
一 広島県広島市で借家住まいのケース。

隣家で、ガスレンヂに掛けた鍋のテンプラ油が沸騰し、こぼれて火に燃え移った。火柱があがったが、若い主婦は備え付けの消火器で素早く消し止めた。 

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