第五章
 
智樹は東京都に隣接するG県に住んでいた。
オーナーは大手調査会社の役員をしていて、都心に商業ビルを五件も持つ資産家であった。政界にもパイプを持っていて、政界への進出を狙ってると噂され、新聞の発行は彼の一つの武器であった。数万部単位の新聞が建設会社や胡散臭い会社に運び込まれていて、その会社のスキャンダルを取り上げることはオーナーがタブーにしていた。つまり新聞を取ることは口止め料を払うことでもあり、宣伝費をだすことにもつながった。法人関係のスキャンダルを取り上げようとすると敵側は喜んで情報を提供してくれた。どの世界にも必ず敵と味方がいてそれを見分け、うまく利用しなければならない。
智樹は大手新聞社で記者をしていたが、市民新聞のオーナーにスカウトされたのであった。すべてがマニュアル化された組織は冒険も出来ず、無難なだけで面白くなかった。官僚主義化したマスコミなんて意味がないと考えた。
某巨大暴力団の会長が二千坪の敷地内に抗争で殉死した組員の慰霊塔を建てている、祭る寺もつくり住職も抱えていることを記事にしようとした時、編集長から(待った)がかかった。さらに税金や公共料金は名目上は正当な対価であるが何パーセントは闇組織に流れていることを暴露しようとしたときも同じであった。超一流の会社も闇組織に献金をしていて、事業が無難に出来るように工作し、献金の事実が隠蔽出来るのが優秀な社員なのである。それらを知っていながらマスコミは広告が取れなくなることや闇組織の仕返しを恐れて目を瞑っている、だからいつも同じネタ同じ観点になり無難な紙面しか提供出来はしない。記者クラブといういわば談合に近い場所もその役割を果たしている。
智樹は大新聞が出来ないことを市民新聞でやってみせようと考えた。オーナーをいつかは自分の手中に取り込み、編集の実権を握る。それには特ダネを自分で探し、市民の信頼を得て購読者を増やし販売数を伸ばし、新聞の原点をつくってみせる、と考えた。
 月に一度の発行で、新鮮なネタ探しのため、(情報求む)と紙面に出し、読者の参加意欲も刺激していた。
 ある時、投書が舞い込んできた。
封書の裏面には町名、それに山本という姓だけが記されてあった。

(オカしな話なんですが、どう言ったらいいんでしょうか、実は私、家がいつ焼け出されるか心配なのです。 

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