徹は一語一語、言葉を強めていた。
「変ったところ?」
「そうなんです。彼は生命保険会社で働いていましたが変な噂がたっているのです」
「どんな噂ですか?」
「彼が転勤した先々の隣の家で火事が起こり、燃えているんです」
徹と佐藤隆は学生時代からの親友であり、隆と怜子が結婚してからも親しく付き合っていた。転勤した先々の隣の家が出火したことも隆から直接聞き相談を受けていた。
「それがどうかしたんですか?」
「今、あなたの隣に彼が越してきたんでしょう?」
「はい」
山本は催眠を掛けられた状態であった。
「わたしの家が燃えるということですか?」
「確信はありませんが警戒しなければなりません」
「えー」
山本は言葉を失った。
「どうすればいいのですか?」
「武田智樹という新聞記者がいます。これからわたしが言う住所に住んでいますから会って事実を調べてもらうことですよ。わたしが言ったということは忘れるんですよ」
高橋徹は言って、(市民新聞)の名前を出し、住所と電話番号を教え、山本は手帳に控えた。徹は道順を教え、そばに大手量販店があることも言った。
「はい、わかりました」
徹はその様子を見届けると山本の耳のそばで手をかるく叩いた。
彼は目覚めた。
「いい気分でした」
礼を述べた。
徹は演出家にもなれた、いや実際に演出家であった。
山本に伝えたことが智樹を不幸に落としいれ、美咲との不倫(怜子の予知したとおり二人は不倫をおこしていた)への復讐が出来る、と予想を組み立てたのであった。佐藤隆が智樹の家の前に越してくることも怜子の予言の内容から日記に控えていた。
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