それから一週間同居し、彼女は居付いてしまった。体の関係が出来た。
彼女は昼間、部屋の掃除や洗濯、片付けをした。汚れた部屋だったので、彼女は満足し、仕上げる仕事はじゅうぶんにあった。そんな時彼女は普通の女であった。
買い物に出かけると消臭剤、洗剤、サンダル、布巾、炊事場のカーテンなど買ってきて、二人の部屋の雰囲気をつくっていった。
夜は食事を作って彼の帰宅を待った。
心が落ち着いたせいか狭心症の症状は治まっていった。顔色も普通の色に戻り、元気をみせてきた。
隆は外に干された女の下着を見、女っけの出てきた部屋を珍しげに見回したが、仮に泊めているだけだと軽く考えていた。
徹は薄い壁を通して隣室の様子を音や響き話し声で見、成り行きを観察していた。通路で彼女と顔を合わせると挨拶を交え、「今日の晩御飯のおかずはなんですか?」と聞いた。彼女は「お魚のテンプラですよ。いっしょに食べませんか」とこたえ、「レポートが仕上がったらね」と彼はこたえた。
彼女が実家に戻る前夜、隆の部屋で彼女はスキヤキをつくり、三人で鍋を囲んだ。長ネギを刻んだり、肉と糸こんにゃくをかき混ぜたり、生卵を割って茶碗に入れたりする様子はふつうの娘であった。
彼女はそのままいつ居てしまいたかったが、彼は両親も心配してるし、自分は責任は取れないといった。彼女はしかたなく帰ることにした。が実家に戻る時、隆は上野駅まで見送りに行った。
彼女は追い返される気持ちになり、車窓で恨めしげな目を押し付けた。
一週間後、赤い郵便受けに彼女からの手紙が入っていた。
徹は好奇心のあまり自分の部屋に持ち帰り、盗み読みをしてしまった。
愛の告白じみた文面が長々と続いたが最期にこんなことが書いてあった。
(隣の徹さんのことです。あの人は美咲という人と結婚してますが、三十年後に彼女は不倫をします。相手は武田智樹という新聞記者です。住所は・・です)
手に取った徹はその文面に見入った。
驚きのあまり、頭の中が真っ白になった。
冷静さを取り戻し、精神病者の中には天才や預言者が実在することを思い出し、その文献の例を考えた。たくさんの実例があったから、(キチガイと天才は紙一重)という言葉は当たっていた。怜子が預言者であるかどうかわからないが、彼はその文面を日記をかねた記録帳に記した。
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