怖くもあったが研究材料でもあり、盗み読みをやめることが出来なくなった。
自分が悪いことをしていると自責の念にかられながらも玲子の世界に深入りしていった。
 「おまえは精神科だったな。こんな手紙がきてるんだ。読んでくれよ」
 隆が声を掛けてきた時、彼の手には白い封筒が握られていた。
 徹は冷静さを保ち、
 「ふん。どんな女だい?」
 と、受け取り、すでに知っている文面なので落ち着いて読んでいった。
 「この女についてどう思う?」
 「面倒なことになりそうな女だな」
と言ったが、(付き合うのを止めとけよ。おまえは女に不自由してないだろうが)とは言わなかった。止めさせるには好奇心が強すぎ、ドラマの続きを捨てるのはもったいない気がした。
 次の週には玲子の写真が同封されていた。
 徹はいつものように勝手に封を切り、写真を手に取った。初めて見る彼女の表情をじっくり観察した。
 庭を背にしてジーンズ姿の彼女は立ち、痩せて長身であった。ピンク色のセーターを着、飼い猫を胸のあたりで抱き、表情のない顔でこちらを見ていた。整った顔立ち、股下七寸と手紙に書いていたように脚が長かった。やや大きめの目に特徴があった。こちらをやや見下ろす体勢であったが、どこか潤んだような寂しげで少し違う輝きに徹は研修で受け持った患者の目つきを感じ取った。一般人には見当たらない(異次元的な目)という表現しか出来なかったが。
文通を始めて三ヵ月後、玲子と隆は会う約束をした。どちらからともなくと言うより、成り行きで隆の方から匂わしたのであった。それでいながら隆は気がすすまなかった。どんな女か自分の目で確信し、交際を継続するか止めるかはっきりさせようと考えた。落ち合う場所は二人の住まいの中間地点のY駅であった。
駅に時間より二十分前に着いた隆は待合室のベンチに腰を下ろしていた。木の改札口を珍しげに見ながら駅のホームから現れる彼女を想像していた。どこか怖さを予想しながら、太い角材を使った改札口を見ると落ち着きを感じた。
隆は十五分前に着いていた。玲子は逆方向の駅前から約束の時間に現れた。
顔に白粉を塗っていたし、頬が豊かだったので写真の顔とはちがって見えた。顔がどこか浮腫んでいるように見えた。 
前
火炎p28
カテゴリートップ
火炎
次
火炎p30