芳恵は自分が女としてなにも出来なく育てられたと逆にうらむことさえあった。ひたむきな女であった。
 「わたしもな、子供を育てる立場になったらようわかってきたわ」芳恵は言い、
 「親の心、子知らず、っていうやないか」
 父はそこで黙った。
 新宮駅からは駅前のレンタカー会社で車を予約し、青梅の智樹の家までレンタカーを運転していくつもりであった。
 「智樹さんのことは許してやれや。本人も後悔しとるやないか。マンションに住んで生活を一新するのもいい」
 「わたしもそう考えとる」
 彼女は二人の息子にペット・ボトルのお茶を飲ませると、言った。父は智樹、美咲、芳恵の話し合い場に同席したいといったが、芳恵が断った。
 「人生はなあ、辛抱したほうが勝ちなんや。これは男でも女でも同じや」
 父の人生訓は聞き飽きていたが、一理があった。
 そういえばあの智樹、帰宅するとえらく機嫌の良いときがあったわ。玄関のドアを開けると考え事に気をとられてる時のほうが多いんやけど。体の中に別人が住んでるみたいに心が跳ねてる日があったな。顔が輝き、美咲と昼下がりに会った日やったんや。わたしは鈍感な女やな、女の気配なんて感じもしなかった。
 わたしが智樹とマンション住まいをはじめたとして、生活上で彼をうけいれることが出来たとしても、体は受け入れられへん。すると智樹は他に女を求めるやろうし、男の体はそうなっとる。
わたしはその心配をせないけんようになる。それやったらおんなじことの繰り返しやないか?
 わたしは智樹を愛してないんやろうか?そうやないんとちゃうか?よく考えてみてもわからへん。智樹の家にもどらんで、息子達と父母で楽しい生活が出来たということは養育費さえ送ってもらえばそれでやっていけるということでやないか?ただ、息子達には父親の教育が必要やというだけでやないか?

 彼女はT教の本部に寄って智樹達との件を相談することにしていた。寄りを戻すか離別になるかわからないが、どちらにすべきかそして話をどのように持っていくべきか迷っていた。
智樹が宗教ぎらいということはじゅうぶんに知っていたので入信してることは秘密にしていたし、彼の前で宗教の話しはいっさいしなかった。市民新聞がT教の内部を暴露して記事にしてるなんて知りもしなかった。入信は友達の勧めで五年前からであった。 
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