そうだわ、わたしは彼をもっと知りたいと思い、電話番号をきいたのよ。次の日に電話を入れ、喫茶店で会ったわ。コンパで会った時と同じくひょうきんで賢そうな男だったわ。新聞記者で家庭人であることがわかり、安心したけど、もし(すべてなしの男)だったらつきあったかしら?
 止めた、と思う。
 どこに惹かれたのかしら?
 どこか違う不思議な存在感、としか言いようがない。
 それは今も変わらない。
 
第二十四章
 
 その日は、美咲と智樹の離別の約束、その確認をする日であった。芳恵が立ち会い、そこではっきりさせるのであった。
芳恵は和歌山県新宮市から東京都青梅駅の智樹の家までレンタカーで行き、帰りは遅くなるので彼女は一泊することにしていた。
 「人生はなあ、山あり谷ありで昇ったり降りたりや。なかなかうまいこといかんからな」
 父の繰言がはじまった、と後部席の芳恵は思った。
父がレンタカー会社までハンドルを握り、送るのであった。二人の息子は芳恵の両側に座って、窓外の景色にガラスに顔をつけんばかりにして見入っている。
 「女は結婚して子供を産みさえすりゃあ一人前やけど男はそうはいかんのや。仕事はせにゃあいかんし、家庭は守らにゃあいかん、外に出りゃあ七人の敵ありや」
 父はしゃべった。
芳恵の件では(俺の女を返せ!)と触れ回られたことしか知らず、火事の連鎖のことも怜子のことも智樹は話していなかった。芳恵にも話していなかった。
 「おまえはなあ小さい頃から手のかからん素直な女やったからまさかそんな目に会うなんて思いもせんかった。智樹さんかて良い人やと思うとったんやけどどこで歯車が狂うたんやろな。魔がさしたんや」
 確かに父の話すとおりであった。

 彼女は小学校二年の時、蓄膿症を患い、クラスの者から臭いといわれて苛められたが、担任がイジメはいけないと抑えてくれた。それ以外は普通の女の子として人に好かれ育ってきた。弟が一人いる二人兄弟、その一人娘であった。母親は彼女を大事にしすぎて農業は祖父母と母がやり、芳恵は茶碗洗いや掃除もさせないくらいにして育て、 

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