(わたしも別れることにいろいろ悩んだけど、あなたと奥さんと私が苦しむようなことはしないほうが良いと結論づけたわ)
ケイタイの先から意外と冷静な言葉が返ってきた。
智樹は彼のほうから別れ話を持ち出していながら(二人はそんな薄い仲だったのか?)と疑問を抱き、すこし怒りがわいた。つぎにはそのとうりだと思い、今度ははっきり別れるべきだと考えた。
「俺も別れるしかないと思う。長い間、ありがとう」
智樹は言い、こちらこそありがとう、と美咲は応えケイタイを切った。
(子供達のこともあるからいつまでもこんな状態にしとくわけにもいかんと思うんや。いずれは今度借りるマンションででもあんたといっしょに住まなあかん。ただ、わたしの気持ちの問題や)
別居して四ヵ月後に芳恵に電話を入れた時のことであった。
(そうやな)
芳恵は間を置いた。
(わたしは一度美咲さんと会うてみたいんや、どんな人か顔を見たいし、話もしてみたい。会わせてくれへん?)
(いいよ)
(そうや、そこであの人とあんたがわたしに詫びをいれ、はっきり別れると言うてくれたらわたしは納得すると思うわ)
(わかった。彼女にも話してその場をもうける)
智樹は納得した。
10月20日は市民新聞第百号の発行日であった。
一面に(巨大宗教の陰謀)という見出しが大きく出ていた。
智樹は発行日から四、五日は休みをとっていたが、その日ばかりは休みを返上し事務所に詰めていた。二本の電話は鳴りっぱなしで、もちろんT教の記事に関する意見や問い合わせであるが、その月の終わりまでつづくことが予想された。
女子事務員は二人いて、一人と智樹、オーナーが電話番をした。もう一人の女子事務員は自由に動けるようにはからっていた。
罵倒だろうが無言であろうが脅迫であろうが対応マニュアルはじゅうぶんに叩き込んでいたので動じることはなかった。大事なのは相手の感想や考えをじゅうぶんにきいてその内容を分別することであり、今回はいつもの以上に注意深くことにあたった。
月末に集計してみた。発行日以来、一日の電話の数は百五十三本で平常時の三倍であった。分別すると、T教の実態を取り上げたことにたいする賛成が76パーセント、反対が19パーセント
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