「声を出さなきゃ良いんだよ」
 「そうだな」
 「せっかくここまで来たんだから」
 一人が両手を合わせて家のほうを向くと、皆それに倣った。
 声にならない読経がエネルギーを放出し、家に向かって力強く収斂していった。
 なんとも不気味な光景であった。
 闇が深まっていくというのに主婦の家は暗いままであった。
 智樹は自分の身を振り返った。
 T教のことを暴露する俺にはどんな反応が待っているのだろうか?こんなやり方をされても俺は動じないが。
 智樹はICレコーダーをオフにするとその場を離れ、バイクのほうに歩いていった。
 主婦のケイタイに電話を入れた。
 相手はすぐに出たので一部始終をゆっくりと話した。
 「そうなんですか。家の中からあの連中を見ていたんですけど、何をやりはじめたかと思っていたら祈りはじめたんですか?こんなことを毎日繰り返されたら頭がおかしくなってしまうわ。どうしたら良いんでしょうか?」
 「彼らの動きをきちんとデータにとるんですよ。最初の出来事からね、証拠になりますから、精神的な被害をうけたという。それを警察に持っていけばいい。動きますよ。市民新聞の今度の号にT教のことがでますのでみんなで読んでください」
 智樹は言った。
 
第二十二章
 
 そうだ、オートロック式のマンションに住むことだ。インターホンが鳴っても開錠のボタンを押さない限り、人はかってに中に入れないし、入ったとしても住人が部屋の鍵のロックを外さない限りドアは開かない。
 戸建ての住まいよりははるかに安全でプライバシーも守れる。
 この家は人に貸しても良いし、売り払ってもいい。
 智樹はマンションを借り、芳恵達を呼びよせることを考えていた。彼女らが実家に帰った翌日などは長男から毎日のように電話がかかってきた。雄鶏から飛びけりを食らったとか、五羽の鶏を外に出したのはいいが卵を草むらや家の床下に産んで探すのが大変だったとか、興奮して話し、お父さん、きっと迎えにくるよね、と念を押したものであったが、近頃は一週間も電話がかかってこなくなった。 
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