主婦の家は一丁目にありそこから近かったので彼は歩きはじめた。ICレコーダーは上着のポケットの中に忍ばせていた。
主婦の赤瓦の洋風の家が見えてきた。その手前の小道をはさんで例の信者の家が建っていた。敷地が百五十坪はあり、和風の家であった。庭は一面に砂利がひかれ、植木は一本もなくて広々としている。
主婦の家の玄関口に人が十人ほどたむろしていた。笑顔を浮かべ家の中を見ながら親しげに立ち話をしている。闇はまだ訪れておらず、人の顔ははっきり見える明るさである。
智樹はかれらを軽く見やって通りすぎた。
知ってる顔はなかった。
通りを渡って二丁目に向かい、公園のベンチに腰を下ろした。
深く木々の茂ったあたりは静かで人の姿はなかった。
作戦を組み立てると、主婦の家に向かった
もとのように十人ほどがたむろし小声で談笑している。
智樹は全身の力を抜き笑顔をつくって、一人の男に声をかけた。
「すみませんちょっと伺いますが、このあたりに大曽根博之さんていらっしゃいませんか?」
勝手に思いついた名前を持ち出した。
小柄な老人は好人物そうな笑顔を返してきた。
「オオソネヒロユキさんですか?ふーん、わたしはこの団地に二十年ほど住んでいますが、聴いたことがないですね。自治会長に聞いてあげましょうか?」
「ありがとうございます。もう時間も遅いですからこの次にでも・。ところで、皆さん集まられて何かあったのですか?」
「市役所のホームページにこの家のことが書き込んでありましたからどんな家かと思いまして」
老人は笑顔をくずさなかった。
「悪い因縁を感じますよ。やはり祖先が悪い、供養をしてあげなくてはいけません。そのお話をしようと思って何度もインターホンを押すんですけどまったく返事がないのですよ。家の中から出てこようともしない。新聞も昨日の朝刊からたまりっぱなしですよ、郵便物も」
と言ってもう一人の男は智樹の顔を見た。
智樹は相手が平常の表情であるのを見、郵便受けの口にたまっているのを見やった。
「気の毒ですね。ここで皆で祈ろうじゃないですか、悪い因縁を追いはらうために」
もう一人の男は真顔になって言った。
「でもこの家の人がおどろくんじゃない。やめたほうが良いよ」
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