父のその姿に自分の死体が重なり、変にさわやかな気分になった。世間条理にしたがって父の葬儀を行い、無難に片づけたわけでもあったが。
物音一つしないトナリの世界で父は焼かれ、トナリの世界に消えた。骨に変わって取り出され、墓の中に入って彼の意識の中に埋められた。
キン、と薄いガラスを鳴らすような小気味良い音が頭上で跳ねた。熱気に膨張した小竹が音を鳴らしたが、楽器の音色より澄んでいた。
今度はポンと大きな竹が鳴った。
火炎は静寂の中で炎をあげただ燃えていた。
夜の闇がさしかかってくると、火炎は生き生きとした姿を現し怖いほどの美しさになった。
智樹は怖くて、独りだといられないと父に言った。
父は「そのうち消えるさ」とこたえた。
智樹はチェーンソー、オイル、混合油を肥料袋に入れ、一升瓶ん、弁当箱、鉈、をリュックサックに詰めた。
炎を残したまま山を降りるのだった。智樹は残された炎を見返しながら山道を下り、孟宗竹の間に見え隠れするまで見送っていた。魂を放置して去るような愛おしさと寂しさを覚え、帰宅して布団の中に入っても炎のすがたが心の中に浮き上がった。
あの火炎は消えるだろうか?
消えてどこにいくのだろうか?
熱気は大気の中に取り込まれてしまうのだろうが、魂の行方を彼は考えていたのである。魂が自分を追ってくるのでは、と案じたが、自分の中に宿ってしまったと思った。
火炎を見ながら起こった衝動を父には話していなかった。
ラブ・ホテルの周囲には家も商店も人通りもなく、遠くに別荘が点在しているだけで、建物は浜辺の防風林の中に収まっている。五十メートル先の浜辺で満ち潮が烈しく波打っても、音は生い茂った松林に遮られている。
部屋の空気が濃く匂うのはそばの河口から潮風が入り、混じっているからであろう、塩っけを含む粘り気を感じた。
それは女陰から滲み出る体液のように生々しく、皮膚と感覚に粘り付くものであった。野性の痕跡、そこに潜む本質は彼が求め真髄にしたいものであった。

 智樹は美咲との入浴を終え、充実と幸福に満ちたり、少しばかりの空虚感に捕らわれていた。白のタオル・ケットを着てソフアに仰向けに寝転がり、放心していた。同じく白のタオル・ケット 

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