採用時のコネを聞かれた。背後関係を探られたのだが、コネはなかった。新聞の求人広告で応募した、というと、マスコミがマスコミ内部の告発をすることはタブーなんだよ、そろそろわかっても良い頃じゃないか、とたしなめられた。
二年後に智樹は辞表を出した。
編集部長は黙って受け取り、支局長に差出し、受理された。
智樹は主婦の話に耳を傾けながら、自分のベクトルを見つけたことに気づいた。頭の中がすっきりした。その宗教団体がすべて大手新聞の印刷所に宗教新聞の印刷を委託している事実、それがマスコミの口封じになっていることを公表することであった。テレビ局はその宗教団体のコマーシャルを流し、スポンサー様であることは周知の事実であるからスキャンダルを公表することはタブーであった。
新聞とテレビを押さえてしまえばあとはやりたい放題である。とてつもなく怖い組織になったしまう、いや、なっている。
彼はオーナーにすぐ談判を申し入れた。
「やれよ」
オーナーはいきなり言った。
彼は国会議員、警察、暴力団、経団連などあらゆるところに顔が利いた。敵対するものとは戦ったが、相手が強いと読むと手をひいた。互角であると読んだときには相手に(あなたの本音を出してくれて親しみがわいたよ。いっしょに食事でもしませんか?)といって料亭に招き、相手を持ち上げて飲みしゃべり、手を握りあった。結果的にほとんどの敵が親友になり、弱みのある相手は利益供与を申し出た。ようするに顔役・フイクサーとしての資質を十分に持っていた。
「おれもお前とどうよう、宗教の詐欺商法だけはがまんできなかった。暴力団よりたちが悪い。お前は度胸がある。だから大手新聞社からスカウトしたんだ。T教と戦うなんて総理大臣さえ出来ん。それをおまえが市民新聞でやろう、っていうんだからやりがいがあるってもんだ。例の編集製作者の男をおまえの協力者にしてやろう、彼はもと新左翼だからいろんな世界のことを知っている。二人で組んでやれ。T教ははいろんな戦い方をしてくるからな、迷ったり困った時はすぐにおれに連絡しろ」
智樹はその言葉に力づけられた。
T教は市民新聞をすべて買い取り、記事が世間に出ないようにしてくるであろうから、50万部の発行をし、相手が買い取るかどうか交渉をしてやろうじゃないか。
買い取られれば新聞の発行が出来ないのと同じじゃないですか?
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