とつぜん両手を握り締め、新聞を鷲噛みにすると床に思い切り叩き付けた。
次に新聞を拾い上げ握って立ち上がった。
いきなり新聞の束を振り下ろし智樹の頭を二度叩いた。
「俺を知ってる者がこれを読んだらあざ笑うんだよ、わかるかそのことが!」
佐藤は体中を震わせた。
しばらく震わせていたが座り込み、上半身の力を抜いてソファに座り込んだ。
「ウーン」
と唸った。
「あんたもここまで俺の人生に踏み込んできたんなら覚悟はあるな。おれにとっては過ぎたことだけど、あんたにとってはこれからはじまることなんだよ。叩いたりして悪かった、つい高ぶってしまって」
彼は言って冷めたお茶に手を伸ばし、すすった。
智樹は口を開いた。
「私が垣根の剪定をしていた時、ご主人にお茶を招かれました。あの時に記事の件を話せば良かったのですが、隠すつもりはなかったのですがつい引き伸ばすことになってしまって」
智樹はしゃべりながらあることに気づいた。
佐藤の先ほどの言葉であった。
(書き手自身も誘導されているのに気がつかない)
という言葉に衝撃を受けていた。
おれはつまり無意識のうちに因果関係の糸を手繰りよせていたのではないか?事件らしくデッチあげようとしたのではないか。佐藤の赴任先での火事には因果関係などなく偶発的なものではなかったのか?
それに佐藤が越して来て、自分の身辺に事件が押し迫ってくるなんてまるで小説もどきではないか?
幕切れは悪いが新聞のドキュメントを打ち切るしかないか?
そのことを佐藤に冷静に話していった。
「記事は打ち切ります。私だって自分の家庭のことを世間に出せるはずはないんですよ、打ち切ることは読者の信頼を裏切ることになりますがしかたない」
智樹は言い、佐藤にお茶をそそいだ。
「それが良い」
佐藤は言うと新聞で叩いたことをまた詫びた。向かい同士だから何でも話し合って良い関係をつづけようではないかと言い、智樹も同意した。
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