晴れたら金の鈴あげよ
てるてる坊主 てる坊主
あした天気に しておくれ
私の願いを 聞いたなら
甘いお酒を たんと飲ましょ
てるてる坊主 てる坊主
あした天気に しておくれ
それでも曇って泣いたなら
そなたの首を チョンと切るぞ
(浅原鏡村作詞 中山晋平作曲)
智樹は人差し指を伸ばし、上下に振りながら歌っていた。
(そなたの首を チョンと切るぞ)
彼はこの言葉の意味を知っていた。
その時代は長いこと雨が降らなかった。米、野菜が生育せず農民たちにとって死活問題であった。近くの禅寺に雨乞いをたのみ、禅僧たちはその行に励んだ。一人の若い禅僧だけが励まなかった。いつまでも雨は降らず、米、野菜が全滅した。若い禅僧は刀で首を撥ねられた。
そんな残酷な話であった。
歌い終えるとあたりは静かになった。
彼は焼身自殺した母子のイメージに囚われはじめた。
二体のテルテル坊主は彼の手に握られていた。
背後で物音がした。
振り向くと、食堂間と居間の境のドア、その明り取りの曇りガラスに人間の顔がぼんやり浮かんでいた。芳恵が聞き耳を立て様子をうかがっていたのであった。
「コソコソするな!こっちに来い!」
智樹が大声を出すと、芳恵が現れた。
彼は彼女を食卓テーブルの前に座らせた。
「ではこうしよう。俺の携帯電話にGPS機能をつけ、お前のケイタイのマップで居場所がわかるようにしよう」
智樹は言って彼女の目をみた。
彼女が黙っているので彼は「そしたら俺がラブホテルにいるのか仕事場にいるのかお前にわかるじゃないか?」と言い、「そやけどケイタイを仕事場に置いたままもう一つのケイタイを持ってホテルに入ることも出来るんやないの?」と彼女は応えた。
智樹は笑った。
「ケイタイを二台持ってるかどうかは電話料金の明細をみればわかるじゃないか」
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