目の前にはベットが横向きの位置に座っていた。太い皺を寄せたシーツが庭に面した窓から薄い日を受け、行為の余韻を現している。

 脱ぎ捨てられた下着がベットの足元に散らばり、暖かいエネルギーを残している。
 「顔は暗くなかったし、どこか、ホームレスの生活を楽しんどるようやった。スーパーの駐車場に座り込んで空を見上げていたことがあったし、学校帰りの小学生達に(道草せんで、気をつけて早う帰らないかんよう)って声をかけていたこともあったよ。なんでこんな人がホームレスになったんやろかち、私は思いよった」
 彼女はわたしの膝の上に手の平を置いていた。
 手の平で太ももの肉をまさぐっていた。
 「顔は見たか?年は幾つくらいやった?」
 わたしは目を閉じたまま、ラーメン屋の男の顔を思い出そうとしたが、ある程度の印象しか思い出せなかった。
 「童顔で、五十くらいやった。すれ違った時動物みたいに臭かったわ。あんな臭い男とだけはセックスしたくないわ」
 彼女は言った。
 「あ、こんな話も聞いたわ。わたしの友達でスナックを経営してるママが言いよった。あの人、スナックに酒を飲みに来たんだって。一度だけだけどね。開店早々、店の中に入ってきた時、今の時間はまだ残り物はありませんよ、と言うと、一万円札を出し、これで酒を飲ましてくれ、使い切ったら出て行く、と言って先に金を渡したんだって」
 「ふん」
 わたしは目を開け、その話の続きを待った。
 「ビールやら焼酎を、うまそうに、時間をかけて呑んだんだって。いい頃酔っ払って、ちあきなおみの(喝采)を何度も歌ったんだって。うっとりして、聞いてるほうが飽きるくらい歌った。それから身の上話を始めたんだって。恐喝罪で刑務所に入ってて、出所してからラーメン屋を始めたんだって。そのかたわら金貸をやって大儲けしたんよ。子分やら取り巻き連が出来て、組を作ったんやけど、ある日、組の事務所に放火して暴力団に追われる身になったんよ」
 妻はしゃべった。
 「組の事務所が丸焼け?赤いトタン屋根の家やないか?その場所はどこやった?」
 わたしの質問に彼女はある地名を言った。
 
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