夜露のようだった。

 トラックの重い排気音が伝わり、その長引きが時間の観念を呼び覚まし、わたしの存在をはっきりさせた。
わたしは傍にあった枯れ竹を焚き火の中に投げ込み、火の勢いを取り戻させた。体を温めると、地面の上に横たわり、眠りに就いた。

 騒々しさで目が覚めた。
 一眠り、していた。
 カラスが何羽も、うるさく啼いていた。
 木の枝から地面に舞い降り、まだ薄暗い闇の中で小動物の肉を啄ばんでいる。
 車に轢かれたウサギや狸やウリ坊などの死骸を食っている。
男が持ってきたものだ。
 光が木々や草に色彩を付け、形を現し始めていた。
山の頂であった。
枯葉と草に埋もれたありきたりの風景だった。
 (夜になるとまた焚き火が現れ、あの男はここに座っているにちがいない)
 わたしはほとんど確信に近い考えを持った。
 
 その日わたしは仕事を休んだ。
家の中でぼんやりして息を抜いていた。
 妻にはすべてを話した。
 バイク事故に会ったに違いない、と思って警察に調べてもらったが、事故の該当は無く、わたしの友達や親類にも電話をかけた、と言う。会社に電話するのはその次に考えていたと言う。
 無事に帰ってきてくれただけでも嬉しい、と彼女は涙を見せた。
 「そう言えば、そのホームレスはちょっと変わっていたわね」
 白のバス・ローブに身を包んだ妻は、わたしに言った。
 わたしも白いバス・ローブに身を包んで、ソフアに背中を伸ばし、両脚を低いテーブルの上に投げ出していた。
 ウイスキーの入ったグラスを時々、口に運んだ。
 
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