まるで生き物、蛍みたいだ。彼らは情報も持っているし、原子、分子の段階では自己繁殖能力も持っている。

(生命体と非生命体の違いは自己繁殖力があるかないかで決まる、と生物学者は書いていた。だが、友人は言った。火であれ、石であれ、空気であれ元素で成り立っているのだから、増殖したり、分化したり、死滅したり、変身したりしていて、それらは生命体なのである)
友人は言った。
わたしは次に男との出来事を思い返していた。
自分が幻覚を観ていたのか、回想に浸っていたのか、わからなかった。
確実なことはそれが体験の正確な再現であり、追体験をしたということだ。
そして、あの男と再会したということだ。
 首を回してみると、わたしの傍で黒い像がうずくまっていた。
 男のはずであった。
が、影のような頼りなさである。手を伸ばして触れてみると、太い皺を寄せた黒のビニールが大気の流れを受け、立ち上がっていた。野菜の栽培時に保温効果と虫除けに使うものだ。半ば埋もれたまま、炎の熱風に煽られて、ゆっくりと揺れ、男の顔と上半身の像を作っている。
 顔を俯けたり、上げたり、酒を飲んでいるように見える。
 男の抜け殻にちがいない。
 (霊とはエネルギーでしかない。それが集まったものを幽霊と呼ぶが、物理化学的に分析すれば別に珍しいものではない)
 と、ある本に書いてあった。
 (いや、男は確かにわたしの傍にいた。それでなけれ誰が火を燃やしたのかわからない。
あの男は黙って立ち去り、気配がエネルギーを残していったのだ)
 と考えた。
酒ビンもコップも串刺しも黒のビニールの前に残っている。
黒のビニールがいつわたしに話しかけてきても不思議ではない。
 低い音とも声ともつかぬものが耳に届いていた。動物の呻き声にも似ているが感情がない。大気のどこからともかわからず、耳を澄ましても何なのか判断できない。
 近くで何かが落ち、地面を静かに叩いた。
 
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