こんなやり取りはわたしにとって毎日のことだったので、
「ご不満はわかりますがまず、払うべきものを払ってから苦情でも不満でも言ってください。払わない人には文句を言う資格はありません」
立て板に水を流すようにわたしは言った。
男は考えていたが、
「よし、払う!」
と言って、財布の中から金を出して、テーブルの上に並べた。
金がないというのは逃げ口上で、そんな嘘は見抜いていた。
千円、二千円の金が財布の中にないはずはない。
わたしは契約書を取り出し、男に名前・住所の自書・押印を求めたが、彼が拒否したので、(代筆依頼あり)と通信欄に記し、ラーメン屋の名前と住所を自分で書いた。押印の欄は空白にしていた。
「払ったけ、俺は客になったんやな。お前はお客さんの言うことをじゅうぶんに聞いてやらないかん。一晩中、ここに居れ、俺と話し合おうやないか」
男は自信たっぷりに言った。
わたしは足元を掬われた。
これから仕事を続けなければならないし、家にも帰らなければならない。
(一晩中とはおかしい。わたしにも仕事があります)
と冷静な対応が出来なかったのは、わたしに(言い過ぎてしまった)という負圧エネルギーが生じ、男の高圧エネルギーが流れ込んできたのだ。わたしの波動エネルギーは彼の言動をわたしの強硬なやり方と裏返しにして誘い、導いたのだ。
ぴったり、裏表が重なり合った。
つまり、対象形をなしたのだ。
「会社に電話します」
と言って部屋の隅に行った。
ケイタイで営業部に電話を入れ、経過を話した。
その方面に住む職員が立ち寄って対応するという返事だった。
しばらくして、
わたしの携帯電話が鳴った。
受話器の先から、駅に着いたので間もなくそちらに行く、という職員の声が伝わってき
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